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性分ではありません  作者: 紫音
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第26話

「あの、お姉様」

「どうかいたしましたか?」

「あの、私のお姉様になってください」


ヴィンセント様の身の安全について考えていた時、推定公爵家ご令嬢様から声をかけられます。

彼女は先ほどとは打って変わって自信なさげであり、その姿を可愛いと思ってしまいました。

ですが、彼女は推定公爵家のご令嬢様です。怖がらせないように笑って見せると……良くわからない事を言われてしまいました。


……ヴィンセント様の事をお兄様とおっしゃられているわけですし、先ほどの事から考えれば私とヴィンセント様を婚約させたいと考えるのが普通でしょう。

ですが、アメリア様から聞いている私の親衛隊を名乗る者達の事を考えると……同性愛者ではないかと疑ってしまったりもします。

そのため、反応に困ってしまい、視線でアメリア様に助けを求めます。彼女はまだヴィンセント様といつ出会ったかを思いだそうとしているようで首を傾げたままです。


「あ、あの。その前にお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか」

「は、はい。何でしょうか。お姉様」


……アメリア様から情報が得られそうにないため、話をそらして、まずは彼女の名前を聞く方向に話を変えるように試みます。

このままでは話がしにくいですし、あまり、貴族社会に興味がない私ですがお父様やお兄様にご迷惑がかかるような事をしたくないですのでこれは必要な事なのです。

すでにアメリア様からお姉様と呼ばれているため、呼ぶだけでしたら断る理由はないのですがお願いされて、そのお願いに許可を出していないのに止める気がない事に苦笑いを浮かべてしまいました。


「大変、失礼な事をお聞きしてしまうのかも知れませんが……お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「名前ですか? 私、名乗っていませんでしたか? ……お兄様も私に事に付いてはお姉様にお話になっていませんか?」

「はい」

「そうですか……お兄様、名前くらい伝えてくれていても良いのに」


名前を聞かれて、きょとんとする推定公爵家のご令嬢様。どうやら、興奮していて本当に名乗っていたつもりだったようです。

小さく頷いて見せると彼女は困ったように笑った後、ヴィンセント様からも聞いていないかと質問してきます。

たぶん、ヴィンセント様が先日、お話になられていた子犬のような方だとは思いますが直接、名前を聞いたわけではありません。

素直に答えると彼女は頬を膨らませてヴィンセント様を責めるようにつぶやきます。


「申し訳ありません。私、あまり、華やかな場所には出ませんので」

「それは私も同じです……ルーニィ=ウィーグラードです。名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした」


ヴィンセント様が悪いのではないと言う事を伝えると彼女も夜会のような場所は苦手だと笑います。

その笑顔に少し仲良くなれそうな気がしたのですが、最初の出会いが強烈だったため、警戒をすぐには解けません。

表情に出す事はないのですが彼女は私の顔を見た後、申し訳なさそうに頭を下げてくださいました。


ルーニィ=ウィーグラード様、ウィーグラード家は私の思っていた通り、公爵家様でした。

しかし、自分でも言った通り、夜会など華やかな場所が苦手とは言え、公爵家のご令嬢のお顔とお名前を知らないのは問題があるのではないでしょうか?

ルーニィ様は気にしないで良いとおっしゃってくださいますがマージナル家の事を考えれば少し勉強をして行かなければいけませんね。


「ルーニィ様、謝罪すべきは私の方です」

「お姉様は悪くありません。私こそ、お姉様とお会いできた事に興奮してしまって」


謝罪すべき人間は私であり、ルーニィ様に頭を上げて欲しいと頭を下げます。

彼女は自分にも反省すべき点はあったため、ここで終わりにしましょうとおっしゃってくださいますが……なぜ、私と会う事に興奮なされるのでしょうか?

ルーニィ様の考えは良くわかりませんがそれを尋ねるわけには行きませんので一先ず、笑って見せると彼女も笑顔を見せてくださいます。

なんとなく、2人で顔を合わせて笑っているせいか緩い空気が流れている気がしますが、実際の私の心境としてはかなり緊迫しています。

初対面の公爵家のご令嬢様とどのようなお話をして良いかがわかりません。なぜなら、私は皇太子様であるヴィンセント様も認める変わり者の侯爵令嬢、私の口から出る話題は農作業などと言う普通の貴族のご令嬢が好むようなお話ではありません。


……いまさらですが、ヴィンセント様は良く私との会話に付き合ってくださいますね。


私の事を変わり者と言う割にはヴィンセント様も変わり者だと言う結論が出そうですが、今の問題はそこではありません。

平静を努めながらもどのようなお話をするか一生懸命に頭を動かしている私は何か情報を得られないかとルーニィ様の顔へと視線を移します。

何かおっしゃりたいように見えます。その内容がすぐに想像が付いてしまいます。


「あの、お姉様、先ほどの件なのですが」

「先ほどの件ですが?」


お姉様になって欲しいと言う良くわからないお願いの返事を聞きたいようですが、意味が理解できないお願いのため、誤魔化すように首を傾げて見せます。

アメリア様と同様にただ私の事をお姉様と呼んでくださるだけなら問題はありませんが公爵家のご令嬢であるルーニィ様が私の事をお姉様と呼ぶ事でヴィンセント様の婚約者になったなどと言うおかしな噂が流れては困ります。


「私のお姉様になってくださいと言う話です」


……ダメです。誤魔化せそうにはありません。


身を乗り出して話を元に戻そうとする様子に顔が引きつりそうになります。

……まずはどのような理由でお姉様を呼びたいのか確認する事にしましょう。

誤魔化しきれないと判断すると次の行動に移らなければいけません。ですが……その場合は間違ってもルーニィ様が私をヴィンセント様の婚約者にしたいと考えないようにしないといけません。

ルーニィ様に不審に思われないようにお話の方向性を決めます。

私は噂通りの変わり者の侯爵令嬢です。皇太子様であるヴィンセント様の婚約者は荷が重い。そう思っていただけるように絶対にお話を持って行かなければなりません。


彼女に気づかれないように気合を入れます。この勝負、絶対に負けるわけには行かないのですから。


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