第23話
「興味がなさそうだな」
「そうですね。私にはヴィンの交友関係など関係ありませんから」
「ルディア嬢はぶれないな」
「光栄ですわ」
私のつれない返事が気に入らなかったのかヴィンセント様はため息を吐かれます。
現状、私と彼はただの顔見知りであり、追及する理由はありません。それに私は変わり者の侯爵令嬢、権力争いに巻き込まれるよりは趣味だけを楽しんで生きていたいのです。
ヴィンセント様は皮肉るように言うのですがそれは私にとっては褒め言葉でしかありません。
「……本当にルディア嬢は面白い」
「本当にそうお思いですか? 本当は自分の思い通りにならないので面白くないと思っているのではないですか?」
面白いと口では言っていても本当はそんな事を思っていないでしょう。口元を緩ませながら挑発するように言ってみると彼の眉間には小さくしわが寄りました。
その様子から皇太子である自分が身分を明かしたのだから、どこかで自分の思い通りになると思っていたのが見て取れます。
ですが、私は変わり者なのです。権力になど興味はないのです……ただ、お父様やお兄様に責が及ぶのは困りますがその場合はマージナル家の名を捨てて私だけに責が及ぶようにすれば良いまでです。
「……確かに面白くない部分はあるな」
「隠さないのですね」
「隠しても仕方がない。それに私に意見出来ない者だけ集めた時に私が間違った判断をした時に止める者がいないのは困る」
素直に面白くないと答えた事に少しだけ驚きました。
彼は企みを得意にするためか、素直に頷いた事に驚きを隠せません。ただ、同時にまだ何かを企んでいるのではと言う可能性も否定できません。
ヴィンセント様は私が疑っている事を感じ取ったようでため息を吐かれた後に表情を引き締めて言いました。
……確かに独裁者が国を治めようとすると反発があり、国が割れる可能性もあります。
それを理解している皇太子様であれば仕える意義があるでしょう。
「確かにそうですね。ですが、私はただの娘です。国を動かす身分にはおりません」
「ルディア嬢ならば望めば国を動かす側になる事も可能だとは思うぞ」
「私はただの娘です。そのような才能はありません」
ですが、それを私に言われても困ります。そのような事はそれこそ、お父様やお兄様、小父様のような方達に言われるべきです。
はっきりと言ってみるのですがヴィンセント様はため息を吐かれました。
私の事を高く評価してくれているのはありがたいのですがそのような才覚は私にはございません。
否定して見せるのですがなぜか、ヴィンセント様は眉間にしわを寄せています。
「……なぜ、そのような反応をされるのですか?」
「いや、俺が言うのもなんだが……ルディア嬢は普通ではないんだ。それくらいは簡単にやってのけるだろう」
「簡単に領地を治められるのでしたら誰も苦労はしないでしょう」
「そうだな。言葉が悪かった」
ヴィンセント様の様子はあまり納得がいきません。
私は自分の事で手一杯な事もありますから、領地を治める事などできません。それに私のような者が領地を治めては領民達が可哀そうです。
領地運営をバカにしないで欲しいと言うとヴィンセント様は失言だと思ったようで頭を下げる。
「それなら良いんです」
「それにルディア嬢、俺が間違った事をした場合に止める立場は領主以外にもあるぞ」
「まったく見当がつきませんね」
失言を認める姿にこの話を終わらせようとするのですが、ヴィンセント様は口元を緩ませる。
彼の言う立場に付いては容易に想像が付くのですがそれに触れる気はまったくありません。
表情を変える事無く、言い切るとヴィンセント様は私に聞こえるように舌打ちをします。その態度は皇太子様としてどうなのかと思うのですが追及しておかしな方向に話が流れては困ります。
「ルディア嬢、鈍いふりをするのはどうかと思うぞ。わかっているのだろう?」
「そんな事はありません」
「ふむ。安心しろ。現状はそのような気はない……なぜ、疑うような目で見る?」
しかし、ヴィンセント様は私が終わらせようとした話を続けようとするのです。
鈍いふりなどしてはいないと首を横に振るとヴィンセント様は小さくため息を吐かれました。
婚約の話をする気は無いと言われるのですがどうしても信用はできません。
表情に出しているつもりはまったくありませんが、ヴィンセント様は私が疑っていると言われます。
「他人を疑っているから、他人にも疑われていると思うのではないですか?」
「別に疑っているわけではないのだけどな」
「それなら、その胡散臭い態度に問題があるのではないでしょうか?」
ヴィンセント様に問題があると言ってみると彼はそんなつもりはないと言うのですがやはり胡散臭いと思えます。
出会ってわずかではありますが、そんな私がすぐに胡散臭いと思うのですから、彼の周囲の人間には同じような事を思っている方もいるでしょう。
ただ、彼らは臣下としてヴィンセント様に仕えて行かなければいかないのです。本人に向かって胡散臭いなどと言えるわけがありません。
それをわからないような方ではないとは思いますが……とぼけているふりをしているのでしょうか?
何を考えているかがわからない部分も多いため、考えが読み取れません。
反応を見るために挑発をしてみるのですが、ヴィンセント様は表情を変える事はない。
……挑発には乗ってきませんか。
「身分を隠していろいろな場所に紛れ込んでいるからな。他人をだましていないといけない時もあるからな」
「そう思うのでしたら、そろそろ、本当のご身分に戻られてはいかがですか?」
「それをするとルディア嬢も知っている面倒なご令嬢にしつこく付きまとわれそうだからな」
「それに関して言えば、反論の余地がありませんね。それでは時間ですので私は失礼します」
ヴィンセント様は身分を隠しているせいで自然に身に付いた事だと言われます。
すでに国内の多くを見て回ったのですから、そろそろは皇太子としての役目を果たしてはどうかと聞いてみます。
ですが、彼も身分を公にする事で起こりうる面倒事について考えているようで大きく肩を落としました。
確かにヴィンセント様の正体を知った時のサーシャ様の行動は容易に想像が付きますが授業の時間が近づいてきたため、ヴィンセント様に頭を下げて席を立ちます。




