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性分ではありません  作者: 紫音
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第21話

「……何の用ですか?」

「つれないな」


マージナル家領内にヴィンセント様が訪れてから数日が経った頃、私がお昼休みに学内のカフェで紅茶を楽しんでいると目の前に彼が現れました。

当然のように私の前に座る彼の様子にため息を吐いて見せるのですが、彼は当たり前のように私の前の席に座り、店員を呼び寄せます。

軽食を注文したヴィンセント様は私の顔を見てくすりと笑うのですが整った顔立ちにも関わらず、胸がときめくような事はありません。

……私が変わり者だからでしょうか? と言う疑問が頭をよぎったりもするのですが、そこは彼が胡散臭いからだと自分に言い聞かせておきましょう。


「1人で昼食と言うのは侯爵家令嬢としてどうなんだ?」

「どうと言われても困りますね。それに私は取り巻きを引きつれて喜ぶような趣味はありません」

「確かに、変わり者の侯爵令嬢だからな」


ヴィンセント様は私の表情に変化がないと言う事につまらないと言いたげにため息を吐かれます。

ため息にため息で返して見せます。別にバカにされているような気がしたわけではありません。

私の嫌味にヴィンセント様は苦笑いを浮かべるのですが嫌味で返す事は忘れないようです。


「ヴィンはおヒマなのですか?」

「そうでもないな」


身分を隠して国内を歩き回っているとは言え、騎士と言う身分を持っているはずです。

そのような方は学内を何もせずに歩きまわっているのですから、何か情報を集めている可能性は充分に考えられます。

実際、学内に居ればどこの家がどの家の者と懇意にしているかも見えてきます。そこから見える物から何を企てているかも推測ができます。

ただ、ヴィンセント様はそこまで学生の顔と名前が一致しているとは思えません。

ヴィンセント様が皇太子様である事を名乗っていれば協力を得られるでしょう……ただ、ヴィンセント様の様子を見ていればそのような相手がいるとは思えません。


「それならば……公務にお戻りください。このような事をやっているほどおヒマではないのでしょう?」

「ヒマではないが、ルディア嬢と話をするのも重要なんだ」

「そうですか……ヴィンはおヒマなのですね」


忙しいのならば、このような事をしておらずにお城に帰ってはどうだと聞いてみます。

ですが、すぐに重要な話だと言うのです。重要な話と聞き、まさか、婚約のお話をここでするのかと思いました。

身構えそうになるのですがそのような事をしては弱みを握られてしまうでしょう。彼がマージナル家の弱みを探している可能性だってある。

そのため、ヒマつぶしに付き合わなければいけないのかと言う意味を込めて言って見せる。


「ヒマでもないんだがな」

「そうですか。それなら、私と一緒ですね」

「ルディア嬢は優雅に紅茶を楽しんでいるのだから、ヒマなんだろう?」


ヴィンセント様はヒマではないとため息を吐くのですが、彼はあくまでこの場では皇太子様ではありません。

身分を隠しておられるのですから、皇太子様として扱うわけにもいきません。あくまでもこの場では侯爵家令嬢の私の方が立場は上であり、あなたに付き合う必要はないと言って見せる。

しかし、彼は気にする様子はない。実際は皇太子様なのだから断りきる事はできないのでただの嫌味だと言う事はわかっているのでしょう。


「ヒマではありませんよ。私にも心休まる時間があっても良いではないですか」

「ルディア嬢はどんな厄介事を抱えているんだ?」


学校に来るとどうしてもサーシャ様のお相手をしないといけない。

私はフォノスの婚約者になどなるつもりはないのですが彼女はどうしても私を相手にフォノスを奪い取りたいようです。

しつこく言いがかりを付けてくるため、何とか振り切ったのですが、逃げたと思ったらこの状況なわけです。

ため息を吐いて見せるとなぜかヴィンセント様は興味がそそられたようで口元を緩ませながら聞いてきます。


……なぜ、興味を持つのでしょうか?


彼の表情に背中の辺りがざわつきます。何か良からぬ事を考えているようにしか見えません。

ヴィンセント様が何を考えているかわからない状況ではフォノスやサーシャ様の事を相談するわけには行きません。

マージナル侯爵家の事は認めているとはおっしゃっていましたが、口ではそう言っていても力を削ぐ事を考えている可能性だって充分にあるのですから。


「ヴィンには関係のない事です」

「そう言われて素直に俺が引くと思うか?」

「……むしろ、なぜ、興味を持たれたのかが理解できません」


弱みを見せてはいけない部分もあると自分に言い聞かせる。

笑顔を作って拒絶の意志を見せるのですが、ヴィンセント様は引く気などはなさそうです。

その様子にため息が漏れるのですが、私の表情にヴィンセント様はニヤニヤと笑っています。


「ルディア嬢の事を知りたいと言う事で納得してはくれないか?」

「……それは珍獣的な何かですか?」

「そう捉えるのならばそれで構わない。それに障害が大きいと燃える性質なのでな」


運ばれて来た軽食を口に運びながら言うヴィンセント様の言葉はイルムや領民達が期待する意味を含まれているでしょう。

それがどのような意味で言われているかわかりながらもはぐらかすようにため息を吐いて見せます。

ヴィンセント様は私の言葉の意味を理解されているようで楽しそうに口元を緩ませるのですが、できれば、私以外に目を向けてはいただけないでしょうか。


「良くわかりません」

「本当にそう思っているのか? ルディア嬢は変わり者と言う評価もあるが、聡明とも噂されているだろう。俺が何か調査していると疑っていると言ったところか? ダメだな。他人を信頼するのも人の上に立つ者の資質の1つだぞ」

「それは理解していますが……ヴィンの言葉はあまり信頼できません」


ヴィンセント様は侯爵家令嬢としての資質に問題があるのではと言います。

それは普段からも気を付けています。領民達のお話からも重要な情報が得られる事もありますから、ただ、ヴィンセント様を信頼するにはまだ難しいですね。

信頼に足る事をされてはどうですかと言って見せるとヴィンセント様は小さくため息を漏らすがすぐに面白いと言いたいのか口元を緩ませました。


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