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性分ではありません  作者: 紫音
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第20話

……面倒な事になりました。


ヴィンセント様がお城に戻ってから自分の部屋に着くなり、ため息が漏れてしまいました。

イルムや領民達の反応から考えても、ヴィンセント様は私に好意を持っている可能性が高い。

皇太子様である彼が好意を抱いてくれたのだとしたら、侯爵家令嬢としては本来、喜ばなければいけない事なのでしょう。ですが、私としては面倒な案件が出てきたと言う印象しかありません。


「……まだ、直接、婚約のお話を持ち出されたわけではありませんし、勘違いの可能性もありますね」

「お嬢様、現実逃避はお止めください」


面倒事に巻き込まれるよりはマージナル家領内に引きこもって好きな事だけをやっていたいため、希望的推測を吐露するのですが即座にイルムのため息が耳に届きます。

侍女ならば、せめて、もう少し、私の意見も尊重するべきではないでしょうか?


「お嬢様の意見を尊重していては、このような良縁が破談になってしまいます」


……さすがに付き合いが長いせいか、どうやら、イルムには私の考えが完全に読まれているようです。

彼女の言葉にため息が漏れるのですが、イルムの表情は変わる事はない。

確かに普通に考えれば良縁ではあります……ただ、本当にヴィンセント様がそのような事を考えて居られればですが。お会いしてからわずかですが、ヴィンセント様の事は嫌いではありません。

ただ、好きかと言われると疑問です。なぜかと言えばあの胡散臭さが気になるからです。皇太子様として猫を被らないといけない事はあるとは思いますがそれにしても何を考えておられるかがわかりません。

婚約話もイルムや領民達がそう思っているだけでヴィンセント様の口から出てきたわけではありませんし、何か企みの1部にされている可能性だって考えられます。


「実際、ヴィンセント様から婚約の話をされたわけではありませんし、そのように考えるのは時期尚早ではありませんか?」

「……お嬢様は皇妃になれば好きな事が出来ないと考えているから、現実から目をそらしているのではないですか普通に考えれば良縁でしょう」

「そうですね。普通に考えれば良縁でしょう。ただ……胡散臭いのです」


イルム達の思い過ごしだとだと言ってみるのですが、またもため息を吐かれてしまいます。

本当に婚約話であれば間違いなく良縁です。ヴィンセント様はマージナル家の領地運営には表向きは肯定的のような事を言っていますし、マージナル家を味方に引き入れたい事は確かでしょう。

ただ、あの笑顔の裏には何かあるような気がしてなりません。

元々、政略結婚でどこかの家に嫁げと言われれば行くつもりではありましたが、それはマージナル家を守るためです。私は自他ともに認める変わり者の令嬢です。

変わり者の令嬢を皇妃にでもして何か問題が起きた時にマージナル家に責任を擦り付けられても困ります。


「皇太子様に向かって胡散臭いと言うのはどうなのでしょう?」

「イルムは先ほど、ヴィンセント様にお会いしただけでしょう。私は3度目ですが……どうしても信用できないのです」


イルムは呆れ顔ですが、彼女は1度しかヴィンセント様と顔を合わせていないのです。それも私とヴィンセント様の話を横で聞いていただけです。

彼女はヴィンセント様が皇太子様と言う事で信頼できる人間だと思っているようですが、彼の笑みなどを見ているとどうも信用ができる気がしません。

私がうがった考え方をしているのかも知れませんが本心が見えません。


「信用できないと……皇太子様ですよね?」

「そうですね。彼の言葉を信じればですけど」


それに面識のある彼が本当に皇太子のヴィンセント様だと言う確証はありません。事実、彼が本物である証拠も何もない。

本物のヴィンセント様が病弱である事を利用してそれを上手く使っている可能性だって考えられるのです。

私の言葉にイルムは怪訝そうな表情をするのですが、その可能性を否定はできない。

マージナル家は侯爵家でお父様はお城でお仕事をされている時もあります。お兄様もお父様のお手伝いでお城に顔を出す事もあります。

ヴィンセント様はお父様とお兄様と顔を会わせたくないと言いました。それはヴィンセント様のお顔を知っているかも知れない2人と顔を会わせると彼が偽者だった場合に素性がばれてしまう可能性もあるのです。


「……偽者だとでも言うのですか?」

「その可能性も否定はできません。お父様やお兄様にお会いになる事を嫌がっているようでしたから、本当に私に婚約のお話を持ってきたのでしたら、真っ先にお父様にお話を持って行くべきです」

「確かに当主様にお会いしないのはおかしいですね」


イルムはバカな事を言うなと呆れ顔ではありますがないとは言えない。

ヴィンセント様がお父様とお兄様にお会いしないのはその証拠ではないかと言うとイルムは思うところがあったようで考え込みます。

どうやら、彼女もヴィンセント様がお父様に会わずに私のところに来た事を不信には思っていたようです。


「ヴィンセント様が本物かどうかは見定める必要がありますし、仮に本物だとしても簡単に皇妃と言うエサに食いつくような人間を皇妃に迎え入れたがるような方には見えませんが」

「お嬢様はヴィンセント様がお嬢様の品定めをしているとお考えなのでしょうか?」

「そうかも知れませんね」


先ほどまでお話していたヴィンセント様が本物だとした場合も皇妃と言う立場に飛びつくような人間ではいけないと思います。

私の言葉にイルムは面白くないのか小さく眉が上がりました。彼女は私の事を高く評価してくれているようです。

その様子に嬉しくて頬が緩んでしまうのですが何が面白いのですかと言う意味が込められた視線が向けられてしまいました。


「とりあえず、何を考えているかはわかりませんが、しばらくは見定めさせていただきましょう。私を見定めようとしているのですから、私が見定めても問題はないでしょうし。イルムもその方向でヴィンセント様への対応をお願いします」

「……わかりました」


正式な婚約話が出てくるまではこの美味しい話に食いつく事はない事をイルムに宣言する。

彼女も何か考えがあるようで私の言葉に小さく頷いてくれます。


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