第14話
……観察されている気がしますね。
ヴィンセント様とカフェでのお茶会を終えて教室に向かう途中、おかしな視線を感じました。
アメリア様から私に親衛隊がいると聞かされてから時折、おかしな視線を感じる時があります。
いえ、実際は以前からおかしな視線を感じていた事はありましたが、それは変わり者と言われているせいだと思っていました。ですが、アメリア様が親衛隊の方達が私を見守っていると言われてからは納得が出来ました。
……この状況になれて良いのかと言われれば疑問がわきますけど。
元々、侯爵家令嬢ですから、誰かに見られているのはなれています。だからと言ってずっと観察されていると言う事にはどのような反応をして良いかわかりません。
ため息を吐きながら、教室へと戻るとサーシャ様とその取り巻きが出迎えてくれました。彼女達は私の席の前にわざとらしく立ちふさがっています。
どうしましょうか?
道をふさがれているので声をかけて避けて貰うか、回り道をするかの2択なのですがどちらを選んでも面倒な事にしかならない気がします。
ため息が漏れそうになるのですがあまり、そのような仕草を他の方達に見せるのは侯爵家令嬢としてあまり良くないでしょう。それに目の前にいる方達が余計な因縁を付けてくる未来しか見えません。
立場を考えると中央突破しかないでしょうね。周り道をすると逃げたと騒がれかねません……別にかまいませんね。どっちにしろ。騒がれるわけですから。
最初は真っ直ぐに通り抜けようと思ったのですが私は変わり者ですし、得に困る要素もありませんでした。
こちらから声をかけなければいけなくなる中央突破よりも回り道の方が疲れないと判断して歩き出すと私の様子をうかがっていたサーシャ様の取り巻きの1人が慌ててその道をふさごうとします。
ただ、彼女はあくまでも取り巻きであり、サーシャ様本人ではありません。退いてくださいと言う意味を込めてにっこりと笑いかけると道を空けてくださいました。
自分の取り巻きがあっさりと道を空けてしまった事にサーシャ様は額に青筋を浮かばせました。
サーシャ様がご立腹の様子に彼女は後ずさりしてしまいます。その様子を眺めながら、私は自分の席に座るのですがある意味、私のせいで彼女が窮地に立っているようにも見えます。
「サーシャ様、何かご用ですか?」
仕方ありませんね。この場でサーシャ様が喚き散らし始めても困るため、矛先をこちらに向けさせるために彼女を呼ぶ。
取り巻きの1人を睨み付けていた彼女はゆっくりと私へと視線を向けてくる。彼女の額には青筋が浮かんでおり、彼女がかなりご立腹だと言う事がわかります。
しかし、こんな事だけで腹を立てるのは疲れないのでしょうか?
彼女の様子に彼女の健康状態が気になります。お花でも贈ってあげるべきでしょうか?
「……ルディア様はフォノス様の事を諦めになったようですね」
彼女の健康状態を考えている私に向かい、サーシャ様は上から目線でフォノスの名前を出してきました。
突然、出てきたフォノスの名前に首を傾げてしまいます……フォノスとサーシャ様の件、すっかり忘れていましたね。ヴィンセント様からのおかしなお茶会への誘いとご本人の登場にこの面倒な件を忘れていた事を思い出します。
ですけど……元々、フォノスの事は何とも思っていないのでそんな勝ち誇ったように言われる理由がわかりません。
「申し訳ありません。フォノスの名前が出てくる理由がわかりません」
「先ほどは、ずいぶんと楽しそうに男性とお話をされていたようですから」
彼女がフォノスの名前を出す理由には心当たりがあるわけですが、今、ここでその話を持ち出す理由がわかりません。何か理由があるのではないかと思い、質問をしてみるとどうやら先ほどのヴィンセント様とのお茶会の様子を見られていたようです。
それで、私がフォノス以外の男性とお話していたのを見て、自分の都合の良いように勘違いされたのでしょう。
しかし、サーシャ様はヴィンセント様の正体を知らないわけですが教えてしまえばどのような行動をするのでしょうか? ……フォノスの事を諦めてヴィンセント様の下に向かうのは容易に想像がつきますね。
可愛いフォノスのためにヴィンセント様を売ってしまおうかと言う考えが頭をよぎりますが、いろいろと役に立つお話を聞かせていただいたため、そのような不義理をするわけにも行きません。
実際、皇太子様なわけですから、サーシャ様のような方が1人や2人増えたくらいで変わらないのではないかとも思いますが私がヴィンセント様と知り合いだと知ればおかしな因縁を付けられかねません。
「なかなか、興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。領地運営の参考にもなりそうなお話もありましたのでお父様とお兄様にもお話してみようと思います。そうですね。サーシャ様も興味がありましたら、お話ししましょうか?」
「結構です」
「そうですか。残念ですね。とても、興味深い話だったのでラグレット家にも役立つと思ったのですけど」
「それより、話を誤魔化さないでいただけますか?」
男性とお話をしていただけですぐに婚約だなんだと言う話になるのは侯爵家令嬢として仕方ないとは思いますが、私とヴィンセント様にそのような事はあり得ないですね。
自分で言うのもなんですがお話のほとんどが領地運営や他の領地での農耕法などでしたから……これは侯爵家令嬢として問題があるのでしょうか?
一瞬、そんな事を思ってしまうのですが私は侯爵令嬢です、恋愛で男性と結ばれるような事はないのですから私が考えても仕方ありません。
他家の領地に目を付けているだけではなく、自領地の管理について勉強してみてはどうかと言う意味を込めて聞いてみるのですが鼻で笑われてしまいました。
最初からそのような答えが返ってくるのはわかっていたのですが残念だと苦笑いを浮かべて見せる。
ただ、彼女は私がフォノスとの事をはぐらかせていると思ったようで敵意を隠す事無く、私を睨み付けました。