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性分ではありません  作者: 紫音
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第12話

「……これはいったいどう言う事ですか?」

「何だ? 先日、お茶に誘ったはずだが」

「それは確かにそうなのですが……」


ヴィンセント様のお手紙にお返事を書いた次の日、授業を終えて馬車に向かおうとしていた時、私は推定ヴィンセント様に拉致されました。

拉致と言っても私がいつも昼食をいただいている学園の敷地内のカフェなどですが状況がつかめずに眉間にしわを寄せてしまいます。

そんな私の事など気にする事無く、推定ヴィンセント様は店員を呼び寄せて適当に注文をし始めます。

その様子にため息を吐いた後、なぜ、私はこのような状況になっているのかと聞く。

彼は私が疑問を抱いている理由がわからないようで小さく首を傾げるのですが、確かにお茶には誘われましたが皇太子様からのお茶の誘いなのです。

普通は学園内のカフェではなく、イルムが言ったように王城の中庭かどこかだと思うではないですか?

処理できない状況に眉間にしわが寄ってしまうのですが推定ヴィンセント様は私の顔を見て楽しそうに口元を緩ませています。

バカにされている気がするのですが彼の目的がわからない……と言うか、まずは確認しないといけない事があります。


「あの、1つよろしいでしょうか?」

「何だ。ルディア嬢?」

「……ヴィンセント殿下で間違いないのですよね?」


この方が推定ヴィンセント様から本物のヴィンセント様か確認する必要がある。彼が本物のヴィンセント様であればこのような場所でお茶を飲んでいるのは体裁的によろしくはない。

そのため、身体を前に乗り出して彼との距離を縮めて正体を確認する。推定ヴィンセント様は1度、呆気に取られたような表情をするのですが予想外の言葉だったようで噴き出してしまいました。

その様子は皇太子様としては見苦しいと言われても仕方ないのですが私にはとても自然に見えました。


「間違いない。俺はヴィンセントだ。ただ、ヴィンセントは病弱だと言う噂だからな。この場ではヴィンで頼む」

「そうですか……ずいぶんと噂と違うのですね」


間違いないと答えた後、ヴィンセント様は楽しそうに笑われます。

愛称で呼べと言われて迷ってしまうのですが確かに皇太子の彼がこのような場所でお茶を飲んでいる事が知れてしまえば騒ぎが起こってもおかしくはない。

特に私の知っている令嬢には皇太子だと知ると声色や態度を変えてすり寄ってくるに違いないのです。

それにこれは皇太子様からの命令であり、侯爵家令嬢である私では逆らう事などできるわけがない。小さく頷いてはみるものの噂で聞いていたヴィンセント様と目の前にいる彼はまったく異なります。

どうして、噂と違うのかはやはり気になります。


「噂とはそのような物だろう。だいたい、噂で言ったら、ルディア嬢も変わらないではないか? ずいぶんとたくさんの武勇伝を持っているようじゃないか」

「武勇伝と言う物には心当たりはありませんが、変わり者と言われている事は知っています。先日も言われましたし」

「先日も言われたか? それはどんな男に言われたのだ?」


……どうやら、私のおかしな噂はヴィンセント様の耳にも届いているようです。仕方ないではないですか、宝石やドレスなどで着飾って華やかな場所に出るのは性に合わないのですから。

ため息が漏れそうになるのですが、ヴィンセント様を不愉快にさせてはいけません。困ったように笑ってみせるとなぜか、ヴィンセント様は私の言葉に食いついてしまいました。


……なぜ、そのような事を気にするのでしょうか?

ヴィンセント様が何に興味を持ったかわかりませんが答えないわけには行きません。


「元婚約者様ですね」

「バルフォード侯爵家の嫡男か?」

「ご存じでしたか?」


隠しても仕方ないため、正直に答えるとどうやら、ヴィンセント様はご承知のようです。

多くの情報をつかんでいると言う事に少し背中の当たりが冷たくなりますがヴィンセント様は私の顔を見て小さく頷かれました。


「ずいぶんと見る目がない男だったようだな」

「私は変わり者ですから、多くの方がそう思うのではないですか?」

「そう言う割にはずいぶんと多くの者達から婚約の申し入れがあるようだが」


……この方はどこまで私の情報を集めているのでしょうか?

アルフレッド様との婚約破棄は場所が場所だったため、噂が広がるのは早いでしょう。ですが婚約の申し入れに関して言えば公表しているわけではありません。

サーシャ様なら婚約の申し入れがこれだけあったと自慢げに話して回るのでしょうが、私はそんなに恥知らずではありません。

ただ、ヴィンセント様は皇太子様です。私のような者の情報を集める理由にはなりえません。


「そうですね。それほどまでにマージナル家とのつながりが欲しいのでしょうか?」

「侯爵家とのつながりを欲しがる者は多いだろうな。それも領地運営が上手く行っている数少ない地。その知識や経験を得る事が出来れば自分達の評価にもつながるからな」

「知識や経験など、問われれば隠す事無く伝えますのに」


多くの者達が私を婚約者にしたい理由はマージナル家侯爵家とのつながり。

私の事を見ていない事にため息が漏れそうになる。何とか、ため息を抑えつけるとヴィンセント様はマージナル家の領地運営まで調べているようです。

ただ、お父様やお兄様も他の方達に意地悪をして情報を伝えないと言う事はあり得ません。実際、小父様とも相談をしてマージナル家領内で上手く行った事をバルフォード家領内で試したりもしている。

フォノスの話では試した事が上手く行っており、今年の収穫は一定量が見込めそうだと言っている。


「頭を下げるのを恥と思う者達もいると言う事だ」

「そんな事を考えるより、もっと、気にする事があると思いますけど」

「それに関して言えば、同感だ。ただ、他人を追い落とせば自分の価値を高められると思っている者達も多いからな。マージナル家のような考えを持つ臣下は貴重だ」


領民達の事を考えればもう少し柔軟な考えを持って欲しい物です。

ヴィンセント様はお父様とお兄様の事をかなり高く評価してくださっているようでお2人を褒めてくださいました。

その言葉に表情が小さく綻んでしまいました、そんな私の顔を見て、ヴィンセント様は何かあるのか口元を小さく緩ませました。





……ヴィンセント様が笑うと悪意のような物が見えるのはなぜでしょうか?


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