【詩】地面を食む鹿
昨晩はあんなにも
激しく降っていて
今朝になっても
しびしびと
まだ降っていた雨は
もうほとんど止んでいた
鹿が芝生の地面を食んでいる
うまいのかそうでないのか
一心に食んでいる
春先の鹿の角は
その黒く濡れた瞳と対照的に
白くて丸くて滑らかそうに見える
近づくと
鹿は顔を上げて
わたしを見た
わたしは
若い鹿の真っ直ぐな鼻先に
指先を伸ばして
そのままでいる雄鹿の
鼻先に軽く触れた
鼻の少し上のところの
固い毛は湿っていた
大きな黒い鼻は
すっかり濡れていた
わたしは
思いがけない赦しに
しばらく立ち尽くしたけれど
一頭だけ
わたしと向き合っていた鹿は
なんだ
と言う顔をして
向こうをむいて
また
新芽を食むことへ
戻ってしまった