ヒルドラ事件 その3
「いらっしゃいませー。何名様ですか。」
「四人っす。」
ヒダたち探偵部一行は依頼者弘前ツガルの母(有名会社の社長)の不審な行動を調べるため彼女を追跡し、現在汐留市内のマンガ喫茶にいた。
「おタバコはお吸いになられますか。」
「吸わないっす。つーか中学生っすよ。落合ビンゴじゃあるまいしよォ。」
「ヒダ、ビンゴも本物のタバコは吸ってなかったわよ。」
「そういやァそうだったなァ。」
「あの…ヒダ君、お母さん喫煙席行っちゃったよ。」
「マジか。じゃあお吸いになられます。」
「では、こちらになります。」
「店員おかしいだろ。」
カイジがツッコんだがスルーされた。
「よし、ここならツガルの母ちゃんにもばれないだろ。」
ヒダたちはツガルの母とはす向かいのボックスに座った。しかし、しばらく観察していたが雑誌を読んでいるだけで特に変わった様子はない。
「なァ、ツガル。お母さんが浮気ってのはちょっと考え過ぎだったんじゃあねェか?」
「そうだといいんだけど…。」
そう言ったツガルの不安は的中してしまった。それはもうヒダが帰ろうとしてツガルの母から目を離した時に起こった。
「ああ、ノゾミ君いいわあ。」
いきなりお母さんが変な声をあげた。
「おい、ノゾミ君って誰だ。」
ヒダが誰にともなく言うとみんな各々の考えを言った。
「新幹線かも。」
「いや、それはねェ。」
「お母さんの会社の人かも…。」
「あのしゃべり方は部下へのしゃべり方じゃあねェだろ。コマチ、ファイナルアンサーを頼む。」
「ノゾミ君は……。」
コマチは一息溜めてから言った。
「不倫相手よっ!」
「なぜそう思うッ!」
「女の勘よっ!」
「よし、全員ツガルのお母さんに突撃だァ!」
「よし、じゃねえよ!証拠不十分だろ!」
とカイジがツッコんだがまたもスルーされた。
「あの、ちょっといいですかァ。」
ヒダがガラの悪そうな感じで言った。
「えっ何?ツガルも何でいるの?」
「何でって決まってるじゃあないですか。」
ヒダも一息溜めてから言った。
「あなたの浮気現場を確かめに来たんだよォ!」
「浮気!?あ、でも浮気と言われればそうかもしれないわよね…。」
「お母さん!どういうこと!?」
「ほんとは恥ずかしいから家族には内緒にしたかったけど息子が心配しちゃってるんだったら言うわ。」
ツガルのお母さんは一息溜めてから言った。
「実は私、この歳で少年マンガにハマっちゃって毎日マンガ喫茶に通っちゃってるの。恥ずかしいから普通の雑誌でカモフラージュしてるんだけど。」
「じゃあ、ノゾミ君ってのは?」
「あら、聞こえちゃってた?恥ずかしい。「ポイントカードマン・ノゾミ」よ。主人公のポイントカードの達人、多摩川ノゾミが色んな悩みを抱えた主婦にポイントカードの裏ワザを教えて元気づけるっていう話なんだけどこれがまた…。」
「あの、もういいっす。俺ら帰るんで。」
「あらそうなの。またうちのツガルと遊んでちょうだい。」
「それじゃあ、失礼します。」
帰り道ヒダがつぶやいた。
「今回の事件で解ったことはマンガの力ってすげェってことだなァ。」
カイジとコマチは黙ってうなずいた。
お母さんがマンガにハマるって今時珍しいことではないですけど「ポイントカードマン・ノゾミ」は胡散臭そうですね。