ヒルドラ事件 その1
探偵部の部室は畳敷きの六畳間でちゃぶ台が部屋の中央に置いてある。ちゃぶ台を境にして向かい合うように探偵部メンバーとツガルが座っている。
「コマチ、ツガルに茶ァ頼むわ。」
コマチがツガルにお茶を渡した。茶道部のときの名残りでポットと茶葉は部室に置いてあるのだ。
「はい、お茶よ。」
「ありがとう、本当に探偵事務所みたいだね。」
「いやァ、実は部室に依頼者が直接来んのは初めてでドラマの真似事しただけなんだけどなァ。」
「じゃあ、ツガル君が正式な依頼者第一号だね。」
「え、そうなの。」
「ちょっと、ヒダもカイジも話がそれていってるわよ。」
と言うコマチは制服のリボンの先端に付いている紅茶のティーバッグで紅茶を作っていた。
「お前ェ何でも制服に付いてんなァ。校則違反でシバかれねェのか?」
「生徒会長とのコネがあるから絶対、大丈夫よ☆」
「どこからそんな自信が出てくんだお前ェは。」
「あの~…。依頼の方、いいですか?」
「あッ、すまんすまん。じゃァ、依頼内容を聞かせてくれ。」
「うちは母さんが働いて父さんが家で家事をするいわゆる主夫ってやつなんだけど母さんが浮気か何かをしているみたいなんだ。」
「と、言うと?」
ヒダはがっつき気味で言った。
「母さんは新宿で働いていて夜の6時に仕事が終わっていつもなら7時前には家に帰ってくるんだ。だけど最近はいつもより2,3時間遅く帰ってくるんだ。本人は残業だって言うんだけど…。」
その時、カイジが新宿という単語に反応した。
「新宿駅から汐留市駅までなら急行で約20分だからすぐ帰って来れるはず。君のお母さんは何か隠している!」
「おッ。さすがカイジ。鉄道関係の情報は頭ん中にインプットされてんなァ。」
「おうよ。ちなみに各停で帰って来るなら約30分。やはり時間が余る。」
「じゃあやっぱり母さんはぼくと父さんに隠れて浮気してるってこと?」
「いや、まだ浮気って決まったわけじゃない。もしかしたら君のお母さんは鉄道の素晴らしさに気づいて夜な夜なホームライナーやグリーン車に心を奪われて…。」
「ねえよッ!ンなわけあるか!そんなのお前ェくれェだ、この鉄道オタクが。」
「「オタク」じゃない、「マニア」だ。」
「そういう問題じゃあねェ!」
「もう、二人ともあたしのために…ケンカをしないでっ!」
「お前のためじゃねえよ!」
ヒダとカイジはハモった。
「でもカイジの言うとおりまだ浮気って決まったわけじゃないわ。とりあえず行動に移るわよね、ヒダ。」
「あァ、もちろん。コマチ、今何時だ?」
「日本時間16時33分、ニューヨーク3時33分、標準時8時33分。あっ今34分になった。」
「日本時間だけでいいから…。ンでもってカイジ。汐留市駅の次の新宿行はいつだ?」
「ここから駅まで10分と見て…16時46分の準急に乗れば新宿に17時7分着だ。」
「よし、十分間に合うな。じゃあ新宿へ行くぜッ!」
「ちょっと待って。ぼくお金持ってないんだけど…。」
「大丈夫よ。ほら見て。」
コマチはくるっと背中を向けた。制服に千円札がピンで留められている。
「あたしの背中に羽のように千円札が生えてるから。」
ツガルは呆れてしまった。
カイジがいると鉄道トリックとかも解けそうですね。