「ト」
もうすぐ1年ですね。
これからはもっとサクサクかけるようにしたいです。
放課後の校庭は部活に励む声が響き渡っている。
美術部からは決して放たれることのないその声に、ひとり「青春だな」と感じる。
ふと上を見上げると、頭上の桜の木とすじ雲のかかった青空がキレイに絵になっていた。
肩にかけていたスクバから、スケッチブックと水彩ペンを取り出す。
常に持ち歩いているおかげで、こういうときにいい風景を記録していける。
有意義な時間。
「ホントに絵、好きなんだな」
突然の声に、上げっぱなしの頭を下げる。
手が止まりペンの進みがなくなる。
「春くん」
声の主に思わず笑みが出る。
……きっと、これが私の気持ち、なんだろうなって。
「早いね、部活は?」
「今日は休み。……七海は?」
「私は、コンクールに出す用のスケッチがしたくて」
七海、って下の名前で呼ばれるのは、なんだかこそばゆい。
「……春くん」
桜に目を奪われていた彼の視線をこちらへ戻す。
聞くんだ。
ちゃんと、言うんだ。
「昨日の続き、聞かせて……ください」
「昨日?」
「……なんで誘ってくれたのって、やつ」
少しずつ、彼の顔が見れなくなっていく。
春くんは「あー」と言って、黙り込んでしまった。
ああ、嫌だな、この沈黙。
肩が震える。
抱えていたスケッチブックが、腕の締め付ける力で体に密着してくる。
「……俺は、」
ぽつ、と春くんが口を開いた。
「七海が、好きだ」
「…………え?」
思わぬセリフに、顔を上げる。
いや、『思わぬ』なんかじゃないか。
……だって、期待、してたんだから。
昨日も……さっきだって。
なにも返せない私に対して、彼は淡々と続けた。
「……覚えてないかもだけど、小学生の時会ってんだよ、俺、七海と。」
「絵の展示会みたいなので俺の絵が入賞して、飾られてんの見に行ったんだ。」
「そしたら奥の方に綺麗な花の絵が飾られてて……綺麗だなって、同い年が書いてるようには全然見えなくて」
「でも、そのあと突然、自分の絵が恥ずかしくなって、その場にいるのも嫌になって……もう帰ろうかと思ったらさ、」
「俺の絵を見て綺麗、って、かっこいいって、言ってくれてる子がいて」
「周りから呼ばれてるその子の名前はさ、その、花の絵の子と同じ名前で」
「……なんだかそれだけで、すげー嬉しくなって」
いつもとは違う、どんどんと言葉を紡いでいく彼に対し、私はただ黙ってそれを聞いていた。
次第に彼の頬が赤く染めあがっていっているような気がして。
それに合わせて、鼓動がバクバクと音を立てていて。
それでも彼は、私を真っ直ぐに見つめて、話を続けた。
「中学入ってさ、美術室の前に貼られてる受賞作品みたいなのの中に、その子の名前が、あって」
「たまたま同じ名前かも、なんて思ってたけど、部活の時に美術室の前通って、中覗いてみたら、さ」
「いたんだよ、その子が」
「七海が」
「2年なって、クラス同じなって、すっげー嬉しかった」
「…………」
「……?」
突然何も言わなくなった彼にに、視線を向ける。
すると、ずっとこちらを見つめていた眼は、少しだけ逸れ、赤く染まる顔を隠すように腕が出ていた。
「七海」
「……はい」
「好き、だ」
「……うん」
「私、も、好きです、春くん」
「……!?」
私の返答に、春くんの顔が硬直したのがわかった。
ああ、なんでだろう。
告白されるより、する方がこんなに緊張するんだな。
想いを口にしただけなのに。
ただ返事をしただけなのに。
こんなにも震えが止まらないのはなんでだろう。
「え、と、つまり……」
付き合ってください、なんて簡単な言葉もうまく出てこない。
頭の中が真っ白になっていく。
「えと、あの、…………………っ!」
「俺と、付き合ってください」
あたふたとする私の頭に、ぽん、と優しく手が置かれた。
見上げると、彼がやさしい笑顔をこちらを見ていた。
「……はい」
思わずこみあげてくる涙を抑え込み、精一杯の声で答えた。
春にであった男の子は
時に冷たく
時に優しく
綺麗な音を奏で
私の世界を明るくした
見てくださった方、ありがとうございました!




