「オ」
春までに終わらせたかったです。
夏になっちゃいました。
昔から、クラス替えは嫌いだった。
仲の良い友達と離れたり、
大好きな先生が変わったり、
1年がかりで作り上げたクラスが消えてしまったり。
中学2年目の春。
親友の真由と同じクラスになれて、最高だと思った。
教室に入ってきたあきらかに不機嫌そうな男子が隣に座った途端、最悪だと思った。
1日目。
校門の桜を見ている彼と、何気ない会話をした。
会話ともいえないような会話。
2日目。
消しゴムを貸した。
そのお礼に傘に入れてもらい、家まで送ってもらった。
3日目。
怒られた。少し怖かった。
4日目。
謝った。仲直りできた。
11日目。
祭りに来た。
告白された。
初めてだった。
出会ってたった3日で喧嘩したのも、
11日で告白されたのも。
なぜ?なぜ?なぜ?
脳が機能を失い頭が真っ白になる。
そんな頭をよそに、私の顔は熱を纏い真っ赤になっていた。
「春…くん?」
聞き返すように、彼の名を呼ぶ。
「……」
返事がない。
月明かりに照らされて見えた彼の表情は、私のそれとは比べ物にならないくらい焦っていた。
「え、あ、いっ、いや、今のはっ」
慌てて訂正をしようとする彼の顔はさらに赤くなる。
「……忘れて、くれ」
少し落ち着いた口調でうつむきながら言った。
よくわからない。
とりあえず、
「間違いだったってことでいいんだよね」
ぼそ、とつぶやく。
「あ、いや―――」
「あれ?なにやってんの?」
聞き覚えのある声。
なんとなくだが、今は来てほしくなかった。
「七海――と、渡瀬じゃん!?」
「瀬戸?」
遥だ。
「あれ、何で渡瀬…家こっちだっけ?」
「いや、違うけど」
淡々と会話をする遥と春くん。
知り合いだろうか。
「つか、七海何してんの?」
「え、あ、いや」
こちらへ目を向けたかと思うと、何かを理解したかのように「ふ~ん」と言った。
「今日会ってたのって、渡瀬だったんだ」
それがなんだと言い返したくなったが、春くんの手前、口をふさぐ。
「渡瀬、七海と仲良かったんだね、以外」
「同じクラスだし」
「同じクラスでもお前女子としゃべんないじゃん」
「席となりだし」
「席となりだからってお前と仲いい女子知らないけど」
すっかり話し出す二人は、私の思う「友人」ではない、どこか険悪そうな雰囲気を醸し出している。
「……ま、いいや。」
数秒の沈黙の後、痺れを切らした遥が、春くんを軽く睨みつけて、言った。
「七海のこと、送ってくれて、サンキュ。じゃあ」
「ちょ、遥、」
ひとりでスタコラとその場を立ち去る遥。
「あの、春くん、今日ありがとね、気を付けて」
「あ、あぁ…」
申し訳ないと思いつつも、意味不明に不機嫌な幼馴染を放置できるわけもなく、私は春くんに別れを告げた。
「遥、何怒ってんの」
追いついてすぐ、彼にそう声をかける。
「………別に。」
あからさまに目を合わせようとしない彼に、少しずつ怒りがこみ上げる。
「あきらかに不機嫌じゃん。私なんかした?」
「なんでもねーよ。……お前じゃねーし」
ぼそ、とつぶやいて聞こえた声はつぎはぎで、「なに?」と聞き返すと「なんでもねーって」と返されてしまった。
翌朝、校門の近くで春くんを見つけた。
いつもどうり挨拶をしようと後ろから駆け寄る。
「は~る、おはよー」
彼に声をかけたのは、私ではなかった。
声の主に対し、春くんは、「おお」と返す。
「どしたん?随分暗いじゃん」
「…そんなこと、ない」
わずかに聞こえてくる会話に緊張が走る。
やっぱり、昨日のこと、気にしてるんじゃ…。
あの後、さらに機嫌を損ねさせるのも嫌で遥には何も言えなかった。
ただ、家を出てすぐに見かけたときは、いつもと変わらずに元気だったから、あっちはあまり気にしてないのかも。
そこでふと、昨日春くんに言われた言葉を思い出す。
『好きだから』
『七海が、好きだから』
あの言葉の真意は告白なんかじゃなくって。
一瞬でもそれに期待してしまった私は、きっとすごく恥ずかしい。
「ん?」
そもそも、あれはどういう間違いだったんだろうか。
たしか私は、「どうして誘ってくれたの?」とかなんとか聞いた…はずだ。
その返事が「好きだから」?
いや、これは間違いなんだっけ。
じゃあ、本当はなんで?
なんで、私を誘ってくれたんだろう。
「そりゃあ、好きだからに決まってんじゃん」
まるで当然かのように理沙ちゃんは言った。
「いや、それはないって!」
慌てて彼女の言葉を訂正する。
昼休みの屋上に人気はなく、少し大きな声を出したくらいじゃなんてことなかった。
「なんでさ。好きって言われたんでしょ?」
「そうだけど、それは間違いって本人も言ってたし」
「そうとはかぎらないよ~」
やけにニヤニヤとしながら私の顔を覗きこんでくる。
「なんで理沙ちゃんはそう思うの」
少しムッとして聞き返す。
すると理沙ちゃんは口をあんぐりあけた。
「七海はわかってないな~。そんなに気になるなら本人に聞けばいいんだよ。『どうして誘てくれたの?』ってさ、もう一度。」
「そんなこと言ったって~…」
もう一回あの緊張感を味あわなければいけないのは嫌だな…。
少し黙りこむ私に理沙ちゃんが追い打ちをかけるように言った。
「そもそも、七海は渡瀬のことどう思ってんの?」
「ふぇっ?」
驚きがおかしな声とともに口からこぼれる。
「好き?嫌い?」
「ん~と…」
「期待しちゃったんでしょ?好きって言われたとき。」
「…どうかな、わかんない。」
自分で自分の気持ちがわからなくなり、顔を伏せる。
理沙ちゃんは「う~ん」とうなるち、何かひらめいたように私を見て言った。
「うん、やっぱ本人に聞いてみよう!」




