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ハルノオト  作者: なた
2/5

「ル」

「お、はよう、春くん」

「…はよ」


 教室へはいってきた彼と、挨拶を交わす。

それを見て理沙ちゃんは「なになに!?どゆこと!?」と、私の顔を覘きこんだ。

「昨日何があったの!?わーたーせー!私とも語ろーぜーー!」

理沙ちゃんはすぐ斜め後ろに座る彼に、大声で言った。

「雪村ー」

春くんもそれにこたえるように、理沙ちゃんを呼ぶ。

「静かにしなさーい、ご近所様に迷惑でしょー」

若干棒読みに聞こえるが、理沙ちゃんは満足そうにゲラゲラと笑っていた。

「渡瀬、意外に面白い奴だね」

「雪村こそ、見た目以上にうるさい奴だな」

いつの間にか仲良くなった理沙ちゃんと春くんは、もうすっかり『友達』だった。


「人当たりもよくて、面白いのに」

しばらくして理沙ちゃんが言った。

「なーんでいつも一人でいるんだろーね、渡瀬」

最もな質問に、「うーん」と、曖昧な返事をする。

「小学校の時って、どうだったの?」

「えーとねー、クラス違ったからよくわかんないけど、女子といるとこは見なかったかなー」

だから驚いたよーと、理沙ちゃんは言った。

 春くんのほうを見ると、彼はまた桜を眺めていた。

「…毎日見てて、あきないのかなぁ」

ポツリとつぶやいた。

 それに反応するように、春くんが小さくくしゃみをした。


 今日の部活動は、果てしなく暇だった。

来月のコンクールに出す絵のイメージ画を考えていたからだ。

アイディアさえ出れば後は手が勝手に進むんだけど、そのアイディアが出なかったからだ。

 部活終わり、玄関へ向かう際中、書道部の部室を通りかかった。

 そういえば、書道部だっけ。

何気なく覗いてみると、いつになく真剣な表情の春くんがいた。

その隣には、よく春くんと話している男子もいた。

 文字もさることながら、それを書く彼の姿もまた、綺麗だった。


「なにしてんの?」

桜並木を眺めていると、春くんが声をかけてきた。

「桜、見てた」

「見ればわかるよ」

その言葉、そっくりそのまま2日前のあなたに返します。

「今の時間わかる?」

「6時過ぎ」

私が答えると、春くんは「違う」と吐き捨て、私の手首を掴み歩き出す。

「もうすぐ7時」

どことなく不機嫌そうな、いや、確実に不機嫌なその背中に私は引っ張られた。

「部活、1時間前には終わってたはずだろ」

重たい春くんの声。

「春、くんっ」

ぐっと立ち止まろうとするけど、彼の方が強くて止まれない。

「…手、痛い、です」

おもわず敬語になってしまったのは、彼が少し怖かったからだと思う。

 それでも春くんが私の手を放すことはなく、ただ、立ち止まってはくれた。

「暗くなってんのくらい、気づいただろ」

こちらを振り返り、春くんが言う。

「なんで帰らなかったんだよ」

「その、夜桜、みれるかな、と…」

少し声が震えた。

握られた手が強くなる。

「……今日は、送ってくから」

それから春くんが話すことはなくて、昨日よりも時間が長く感じた。


 家に帰って、彼を怒らせてしまったことにひどく後悔した。

 いいアイディアが浮かぶかと桜を眺めていた。どんどん暗くなっていく中で、綺麗な夜桜を期待してしまったのは事実だ。

 だが、彼が心配して怒ってくれたんだと思うと、やっぱり自分のしたことに悔んでしまう。

 そのことを親友の真由にメールでつたえると、すぐさま返信が来た。

『ななが悪い』

直球な言葉に、うっと、声をもらす。

少しもたたないうちに、また新たにメールが届く。

『アホ』とかえってきた。

それっきり返信はなく、私も気が付いたら眠ってしまった。


 朝、目が覚めると、妙に体が重かった。

寝すぎたかな、と時計を見ると、時刻は9時を指していて、本当に寝すぎていた。

 たまたま土曜で休日だったため助かったが、平日なら普通に遅刻だ。

朝ご飯を食べにリビングへ行くと、兄が朝食を食べていた。

 今日はこれからバイトのようで、そくささとご飯を食べ私の横を通り過ぎて行った。

 パンを口にくわえながら、今日は何をしようかと考えていた。

思い浮かんだのは部活の絵で、ただ、桜を見に行くのは気が進まなかったので、河川敷へ行くことにした。


 河川敷は人が少なくて、いるのはせいぜい散歩にきた近所の方だけだった。

「スケッチでもしてようかな」

思ったよりもいい風景に、ペンが進んだ。

 夢中になりすぎていたか、いつの間にか落としていた消しゴムに気が付かなかった。

 目の前に消しゴムを差し出され、顔を上げると、そこには春くんがいた。

「あ、」

うまく言葉が出ず、お礼も言えない。

 私のスケッチブックに消しゴムを置き、黙ってその場を離れようとする彼を、何とか引き留めようとする。

 立ち止まり振り返る春くん。よく見ると、彼の服の裾を私が掴んでいた。

「なに?」

昨日と同じ重い声に、少しビクつく。

「あの、春、くん、昨日、その、ごめん」

彼の顔は怖いまま。

「心配かけて、ごめん。怒らせて、ごめん。」

すっとしゃがみこむ春くん。そして、私の顔を覘きこみ、言った。

「風邪、ひいてない?」

「うん、平気」

「…そか」

にっこり笑う彼に、もう怒っている様子はない。

 春くんは、そのまま隣に座った。

特に話すこともなく、私はそのままスケッチを続けた。

不意に、「桜」と、彼がつぶやいた。

「…桜、みたいんなら、来週隣町で桜祭り、あるけど」

「え?」

おもわず驚いて、ペンを落としてしまった。

それを拾った春くんが、私の目を見て言う。

「そこなら、夜桜も見れるだろうし、……昨日は、見れなかった、から、」

 言葉を濁らしてその先はよくわからなかったけど、つまりは『桜祭り連れてってやる』ってことでいいのだろうか。

「さすがに夜桜見んなら暗くなるし、だったら、…俺もついてくから」

あわてて付け足すように彼が言った。

「じゃあ、お願いしよっかな」

そういってペンを受け取ると、私は春くんに笑って答えた。

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