28
一向の眼の前には草に埋もれた石があった
「美夜がいない!」
どういうことだ
怒鳴る観咲をなだめて、弓月は石に近づいた。
「地蔵に見えないこともないですね」
「ひとの気配がするぞ」
涼の言葉に、皆は気を凝らす。
「女のようですね」
地蔵の下に、女の気配を感じた。
「眠っているようだな」
冷静さを取り戻しながら、観咲が言った。
「ただの死霊じゃないのよ! さっさと天国へ送って、さっさとコルバルトを探してよ」
「眠っているというより……眠らされているように感じますが」
影が控えめに言った。
「結界に感じられた力の質と違う。これはただの霊だ。親玉じゃない」
観咲は掌に薄青い炎を灯す。
「やはり…おしら様が親玉のようですね」
ぱちり、と指を鳴らし風を起こす。
地蔵に向かって放たれた青い炎が、その風によって煽られる。
浄化の炎に包まれた地蔵は、音もなく崩れた。
女の霊の気配も、なくなった。
「涼、頼む」
消えていく青い炎を見下ろしながら、観咲は言った。
手がかりはまったくない。
もはやこれしか方法はない。
涼は自らの指にかみついた。滲み出る深紅の血を見つめる。
「美夜を探せ。いかなる聖域にいようとも、侵入し、探し出せ」
血は、地面へと落ちていった。
「血の命には、逆らえまい。たとえ妖怪が眼を光らせていようとな」
言って涼は観咲と弓月を手招いた。だが彼らだけではなく、影とミリオンも歩み寄ってきた。
「水の道を通って美夜のもとへ行くが、この土地を支配している妖怪が相手だ。奴が水を介して攻撃をしてくるかもしれない。俺は水に傷つけられることはないが、お前たちはそうはいかない。特に、魔女、お前はな」
唇をかみしめたミリオンは、それでも涼から視線をそらさなかった。
「…私はコルバルトを探しに行くの。平気よこれでも魔女だもの」
いつもの高飛車な言い方ではなく、どこか淡々とした口調だった。決意のもとはもっと別なことにあるのかもしれない。
「私も平気ですよ。これは生身の身体ではありませんから」
二人の言葉に、涼はため息をつき、なにも言わずに背後を示した。
自分の後ろに立て、ということらしい。
そうして四人が背後に立つと、涼は足下に視線を落とす。
五人の足が、地中に沈んでいく。
ミリオンはかすかに息を呑んだが、叫ぶことはなかった。
水の道を、五人は進んだ。
その先に危険が潜んでいようとも、顧みることなしに。




