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無理矢理意識を引き剥した。望んでもいない同化で昔の光景を見せられるのは、なにか不安だ。
力の梶を取るのは私ではなく、木々の向こうにひそむなにかのような気がするのだ。
なにか……、ああ、あの大蛇だ。
美夜はようやく取り戻し始めた意識でそう思い出した。
だがなおも大蛇にそそのかされた木々が、同化しようと迫ってくる。
それから逃げるように、美夜は瞼を持ち上げようとした。
「…桜の精? 気がつきましたか?」
コルバルトの声を聞き、彼が無事だと知る 結界は張られたままなのだ。
つい、気が緩んでしまった。木々はそれを見逃さない。
美夜の意識を引きずり込もうとする。
「…守りますから……、大丈夫…です…か…ら…」
それだけ言うと、再び木々と同化してしまう。
「桜の精!」
呼び戻そうと声を上げても、無理だった。 彼には、無理だった。
急く心がそう思わせるのか、新造の言った地蔵までの細道は、奇妙に長く感じた。
「ちょっと! もう少しゆっくり歩きなさいよ」
男の足と女の足。ましてやミリオンは高いヒールの靴を履いている。
「おい、水の道で一気に行けないか」
ミリオンの叫びなど無視して、観咲は涼に問う。
「この山の中は妙だ。水の力は使えないこともないが、なにか不安だ。おそらくあの蛇の支配下にあるんだろう。
水の道を使うと、なにかされるかもしれない。俺ならば水に傷つけられることはないが、お前たちには危険かもしれない」
観咲が諦めをため息で応えると、背後でかん高い悲鳴があがった。
ちっ、と舌打ちして振り返る。
ミリオンが地面に尻餅をついていた。
「やだぁ! ヒールが折れちゃったじゃないのよ」
「お前、邪魔だからここで待ってろ。結界を敷いといてやる」
「冗談じゃないわよ! あたしはコルバルトを連れ戻しにきたのよ!」
お札を取り出す観咲を怒鳴り付ける。
「それにケッカイなんていらないわよっ 魔女の力が精霊魔法だけだと思わないでよね」
観咲は肩をすくめてみせてから、手を差し出した。
なにかむっとしながらも、ミリオンはその手につかまり立ち上がる。
ミリオンに礼を言わせる隙も与えずに、観咲は弓月と涼を促して歩いて行った。
残されたミリオンは近くの大きな石に座りヒールの折れた靴を眺めた。
「師匠に探させるだなんて……、コルバルトの馬鹿」
そして観咲と触れた掌を見下ろす。
ふん、と鼻を鳴らして埃でも払うかのように手をはたきあわせる。
「ったく、仕様がないわねぇ」
立ち上がり、不自然な体勢のまま歩き出そうとした。だがその動きが止まる。
ミリオンは背後を振り返った。そこには今まで歩いてきた細道がある。その向こうからひとの気配がするのだ。
神社の神主が追ってきたのだろうか、とも思ったが、どうやらひとりではない。複数のひとの気配がする。
精霊と交信できないために、それが何者なのか調べることはできない。はたしてひとであるかどうかさえも。
今日この時間の太陽系惑星の位置を頭に浮かべ、最も地球に影響を与えている惑星を選ぶ。
「火星だから……、ステッキを使うか」
ハンドバックから短いステッキを取り出して構える。彼女は精霊だけではなく、惑星の力をも利用できるらしい。
呼吸を整え精神を集中する。
道の向こうより現れるモノが人間でない場合、火星の力を借りて攻撃するつもりだ。
プライドの高いミリオンは逃げ隠れすることを最も嫌うため、気配を消すなどしない。 それは相手も同じなのか、こちらの気配に気づいているはずなのに、その気配には動揺の揺らぎすら感じられない。よほど肝の据わった相手なのだろう。
木々の間に人影が見えた。
とりあえずひとの形はしているらしい。それもかなり背が高い。
数は三人。
「…………」
なにかひっかかりを覚えて、攻撃体勢だったステッキを傾ける。
木陰から現れた者も、訝しげに歩を止めた
「どういうことよ?」
ミリオンの問いにまたもや無視して、きたはずの道から現れた観咲と弓月、そして涼が顔を見合わせる。
「やられたな」
「ええ」
「結界か」
辺りを見渡して涼が言うと、観咲と弓月も辺りを見渡す。
「ここで核を見つけるのは一苦労だぞ」




