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初音は弓月に曖昧に笑ってみせ、四人を中へ入るよう促す。
「主人が本堂にいますから、詳しいことをお聞きになるといいでしょう。私は食事の用意がありますので…」
丁寧な口調でそう言った初音が示した方へ行くと、数段の階段の向こうに大きな引き戸があった。それを開くと、本堂だった。
「神社というよりは、寺に近いな。鳥居の代わりに鐘があれば寺になるのに」
本堂を見渡して、涼が率直に言った。
「わたしもそう思います。…これは神仏習合の流れを色濃くうつしております神社ですから」
ひとのよい笑みを浮かべながら、新造が近づいてきた。
日本史の中ででてきたような言葉に反応できたのは、現役の涼のみだった。
「では歴史が古そうですね」
「そうですねぇ。天明の大飢饉の際に、おしら様が村を救ったとも聞きますから」
観咲が身を乗りだす。
「そのおしら様について聞きたいんですが」 新造もまたきょとんとしつつも、参内者用の座布団を勧めてくれた。
「私達が調べたところによると、その昔村を騒がせていた大きな白蛇を坊主が退治し、その白蛇があまりに見事な姿のため、ご神体として奉ったとありましたが」
新造は観咲に頷いてみせる。
「ええ、そういう説もあります。神社に伝わっているのは、天明の大飢饉の際に村に巣くっていた餓鬼の群れを退治してくださったという話です」
杉が調べた内容とまったく違うので、観咲と弓月は困惑して顔を見合わせる。
「その後おしら様は、餓鬼を退治したという徳によって龍になられたそうです。それがこの白龍神社の名の由来です。が、おしら様が悪役のようにいわれる説は、おそらく餓鬼の退治の仕方が残酷なものだからでしょう」
「…つまり?」
弓月の促しに応えようとして、新造はなにかに気づいたかのように息を呑み、四人を見渡した。
「まさか…」
激しく動揺して観咲を見る。
「岸本さん?」
もどかしげに観咲がせかしても、新造は逃げるように視線を外した。
「…岸本さん、これは事件にとって重要なことなんです」
応えてくれねば困る、と苛立った弓月が声をあげた。
咄嗟に顔を上げ、新造は弓月を見る。
「おしら様が、事件に関係あるのですか」
あるかどうかは話を聞かねば判断できない
弓月と観咲は目くばせし合うと、互いの意志を確認し合う。
昨夜のことを話そう。
「これまで毎晩、事件の犠牲者が出ていましたね?」
「ええ。ですが昨夜は誰も」
「うちの調査員が襲われました。その際に白い大蛇を目撃しています」
実際は色までわからなかったが、多少の脚色は効果になる。
狙い通り新造は信じられないといった表情のまま、話し出した。




