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力がある理由…。
幼い頃から修業していた毎日が脳裏をよぎる。
「努力……」
呟かれた言葉に、コルバルトは落胆する。
そんな言葉は信じられない。自分も血を吐くほどの修業や勉強をしているつもりだが、彼女らの力にはとても及ばない。
努力さえすればどうにかなるなど、これほどの力を目の当たりにして、信じられるはずがなかった。
「…そして」
力の塊である桜と炎がこの身体から出ていた間も、桜達の声は聞けた。なんの苦もなく話す事ができた。聞けないはずがないと、わかっていた。ひとが自然と呼吸できるように聞けるのが当然だと、心のどこかで理解していた。
「才能と」
桜屋敷の力と、火祭の力が暴走した時のことを思い返す。
あれは解放だった。肉体という器を無視して力が踊り狂う、解放だった。
あの血のたぎりを思い出す。
「血」
「血? それはどういう」
問いの語尾は、美夜に聞き取らせることができなかった。
トーシュ!
ごうっ、と、もの凄い数の声が美夜の脳裏に殴り込んでくる。
「っぁう・・!」
あまりの声量に、頭を抱える。
そばでコルバルトがなにか叫んだが、聞こえない。
助ケテ!
アノ、哀レナ女ヲ助ケテ
「やめて…もっと…小さな声で…お願いよ」
意味がないと知りつつも両手で耳を塞ぐ。
トォシュ!
木々の叫びは力となって、美夜を打ちのめした。
意識を手放す一瞬、鎌首をもたげる大蛇と目が合った。
純白の大蛇は、その琥珀色の瞳をかすかに細めた。
ああ…お前が、この子達を…
操ったのか。
容赦なく、闇は美夜の意識を呑み込んだ。
ただひとつ、けして結界だけは解かぬという強い意志を除いて。
境内へと現れた姿を認めて涼が近づいてきた。
「まだ日本にいたのか、魔女」
抑揚のない声で冷ややかに言うと、ミリオンが噛み付くような勢いで睨んだ。
「悪魔! コルバルトはどこ」
その金切り声は無視して、観咲が口を開いた。
「美夜は?」
弓月のなにか張りつめた気配や観咲の緊張した声音に、涼は異変を感じて柳眉をひそめる。
「対話するために木に触れた途端、吸い込まれていった。…木の道、かもしれない」
涼の言葉に、観咲も弓月も取り乱しはしない。それがミリオンには理解できなく、彼らをねめつけた。
「ちょっと、なんなのよそれは」
「木の道とは?」
またもやミリオンを無視して観咲が問う。 涼も無視された者などどうでもいいようでなおもなにか怒鳴る声をつゆほども気にせず思索する。
そして考えをまとめて、俯けていた顔を上げる。
「俺が水脈を媒介にして移動するように、美夜は木々を媒介にしてどこか
に移動させられたのかもしれない。木々の意志によって」
弓月が肩の力を抜いた。
木々と一緒ならば美夜に危険などあるはずがない。
「ただ…」
その呟きを観咲は聞き逃さなかった。
「ただ?」
「……対話が深過ぎたような気がする」
木を見上げていた美夜の様子をうまく言葉にできない。
赤い瞳を境内の林にさまよわせる。
そのもどかしさが伝わったため、観咲も弓月もさらに尋ねることができなかった。
「みなさーん、もうすぐお昼にしますからあまり遠くへ行かないでくださいませね」
声のした方を見ると、初音が玄関口に立っていた。
観咲、弓月に続いて涼が駆け出し、しぶしぶとミリオンが後を追う。
「すみませんが、ここのご神体について話を聞きたいのですが」
「おしら様のことを?」
観咲の問いに、初音はきょとんとして応えた。
「おしら様とは……白い大蛇のことですか」




