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「どういうことです…? あなた、この子達に憎まれてます」
信じられない、と見上げられて、コルバルトも悪い予感を抱きつつ見返した。
「この子達、とは?」
「木々や草花。あなたが呼ぶところの、緑の精霊のことです」
やはり、と愕然としながらも納得した。だから私は精霊を操れなかったのだ。
「…おかしいわ。あなたはこの子達が憎むようなひとには見えない。この子達はとても優しいもの。多少ひとを嫌うことはあっても憎むなんてしない」
コルバルトの表情に気づかずに、考え込む けれどすぐに顔をあげて、コルバルトを地面に座らせる。そして結界を強化した。
「こうなったら、枯れ葉に幻を写して兄さん達に助けを求めましょう」
眼を伏せてすぐに、あいかわらずこちらを威嚇する大蛇を振り返った。
枯れ葉がいうことをきいてくれない。少しなら動いてくれるものの、もどかしげに崩れてしまう。
「この…蛇は…、この土地を支配している」
そうか、だからここの木々の様子がおかしかったんだ。
「? 移動の魔法ならば、精霊の加護がなくとも魔術でできます」
悄然としながらも、胸元から短いステッキを取り出す。
美夜はなにかいいたげだったが、とりあえず何も言わずに、コルバルトが円をかくのを見守っていた。
「こちらへ」
手を差し出され、美夜はコルバルトの立つ円の中へと足を運ぶ。
コルバルトがステッキを持ち上げ、それを軽く地面に打ちつける。
「hairu!」
言葉が、空しく響いた。
景色は変わらず、円が光り出すこともない 真っ青になり立ちつくすコルバルトの肩を叩き、美夜は無理に微笑む。
この男が、自分の力について、どうやら自信を失いかけているのだと気づいた。
「誤解なさらないでください。ここの土地はあの大蛇に支配されているようなのです。ですから移動できなかったのだと思います」
「……意味が、よく…わからない」
コルバルトは怯えた子供のような顔で美夜に問う。
「あの大蛇が、私達を逃がさぬようにしているという意味です」
いえ、とつけたす。
「そうなると、もう蛇とは言えませんね」
コルバルトが疑問のまなざしで見つめるのに気づき、補足する。
「妖怪とか、神さまの類になるでしょうね」
コルバルトを促して木の根もとに座る。
「そんなモノが存在するのですか」
らちもない言葉に、美夜は苦笑する。
げんにここにいるではないか。
「この国には、そう珍しいことではないようですね」
丁寧に、国ごとの違いを諭す。
「…そんな…、そんな…」
呟きを漏らすコルバルトから視線をはずして、鎌首をもたげる大蛇を見る。
大蛇を威嚇する炎がもうひとつ増えた。
睨み合いの長期戦が続くのだと、美夜は判断したのだ。だから気休めの威嚇ではなく、けして動けぬような楔を打った。
それを見たコルバルトは、崇拝するかのような目つきで美夜を仰ぐ。
「教えてください。あなたは、なぜそうも自在に精霊を操れるのですか?
それも…属性の異なる精霊を」
深く息を吐き考え込んだ美夜は、コルバルトが応えを諦めたころになり、ようやく口を開いた。
「概念の違いが、ありますよね」
「は?」
なにやら焦点からずれたような言葉に、コルバルトは首を傾げる。
「あなた達は、この子達精霊を操るといいますが、それは『支配』するという言葉と同じ意味で使っていませんか?」
当然だ、とコルバルトはうなずく。
「まるで人形師が人形を操るように、精霊を操っているんですね」
かすかに非難の響きを感じ取ったコルバルトは眉をひそめた。
「ではあなた達は違うというのですか」
明らかな咎めの響きを聞いても、美夜は微笑んだ。
「私にとって、この子達は身体の一部。だから木々が傷つけられれば心が痛むし、花が咲けば私も心が弾む。風に吹かれれば気持ちがいいし、雨が降ればほっとする。太陽が照れば、元気になる。この子達がみたものは、たとえ百年前のものでもみることができる」
「まさか。精霊はそんな高度なことはできません」
にっこりと微笑まれて、コルバルトはちくりと心が痛む。
自分にはできないことが、彼女にはできるのだ。
心の奥で、それを認めていた。
これが概念の違い。そしてそれによる力の違い。
基本的ななにかが、彼女らとは違うのだ。
「……それは、才能ですか」
その圧倒的な力は、やはり才能によるものなのだろうか。
問われた美夜は、ふと遠くを見る。




