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「神社!?」
あまり表情を崩さない弓月が驚愕を露にする。
「詳しいことは車の中で」
語尾は高い音に遮られた。
二人が視線を向けた先に、白のスポーツカーが駐まった。
荒々しい音をたてて運転席のドアが開く。
観咲は現れたミリオンのスタイルではなく形相に眼を向けた。
「…コルバルトはどこ」
「知らん。じゃ、急いでいるんで」
なかなか迫力のある形相だったので、時間があれば観察したいところだが、いかんせん彼らは急いでいた。
ミリオンがはっと息を呑んだ。
「桜の精霊も来ているのね あの娘はどこにいるの」
「問答無用で攻撃してくるような方に、教えるはずがないでしょう?」
冷めた口調で弓月が言うと、ミリオンは舌打ちする。
「コルバルトが行ったからよ。そうよ…コルバルトは桜の精霊をみつけたんだわ。教えなさい! さもないと」
「どうするというんだ?」
観咲は人差し指をたてて、指先に炎を灯す その牽制に表情を硬くしたミリオンは叫ぶ
「コルバルトは普通の状態じゃないのよ!?
あなた達と戦ってから彼も私も精霊を操れなくなった。コルバルトは桜の精霊を気にいっていたもの……あなた達からあの精霊を奪うかもしれないわよ?」
自信を取り戻すために。
「観咲……」
低く名を呼ばれ、歯をくいしばった。
わかっている。ここでこの女とあがみ合っている場合ではない。
「ついてこい」
沸きあがる怒りを視線でぶつけながら、ミリオンに言った。
睨まれていることなど気にせずに、ミリオンは車へと戻っていく。
二台の車が神社に向かって走り出した。
なにが起きたのかわからないうちに、沈黙が訪れていた。
悲鳴を上げながら、どさ、という重い物が落ちてくる音を聞いた覚えはある。
そして覆いかぶさってきた男のうめき声も 目の前に、握り拳ほどの白蛇の頭部があった。
美夜を守る肩に牙を立てながら、琥珀色の眼が見つめてくる。
びくっ、と身体を緊張させた美夜を、庇っていたコルバルトの手がそっと押す。
「逃げなさい」
突然現れたこのひとは、木の上から襲いかかってきた大蛇から私を庇ったのだ、と、コルバルトを見返しながら思う。現れたタイミングのよさに、一瞬このすべての事件は彼ら魔女が引き起こしたものなのではないかと疑った自分が可笑しかった。だがコルバルトの言葉までは理解できなかった。
「逃げなさい」
再び、ゆっくりと言い聞かせる。
突き飛ばしてでも逃がしたかった。
だが激しい動きをして、大蛇の注意が自分から美夜へ移ることを恐れていた。
言葉の意味をようやく理解した美夜は、ゆるゆるとかぶりを振る。
それを、コルバルトは絶望的な気分で見返した。
「私のことはいいから、逃げなさい」
緊張で喉を鳴らした美夜は、気を落ち着かせてから手を大蛇へ向けた。
コルバルトは、その華奢な掌に炎が灯るのを驚愕しつつ凝視した。
「なぜ炎を 火の精霊を操れるのですかあなたは一体何者なんです?」
それに気をとられていたために、牙が肩から抜ける痛みを感じずに済んだ。
問いには応えずに、コルバルトの腕を肩にまわして身体を支える。
「そんなことは後にして、逃げましょう」
数メートル離れた地面に、とぐろをまき鎌首をもたげている白蛇を牽制する火の玉と、自らの周りに張られた結界に気づき、コルバルトは身体を支える少女を、畏敬を込めて見下ろした。
「あなたは何者なんですか」
なおも問うのを半ば呆れながら見上げる。「今は逃げることが先です」
右肩と腕でコルバルトを支えながら、左手で木に触れる。
遠く離れた木と木は、土を通じてつながっている。そのために美夜は、木に命ずるだけでどこへでも移動できた。
よほどのことがない限り使わないものの、今回のように緊急の時には当然活用する。
なにか言おうとしたコルバルトは、美夜の左手が木に吸い込まれるように消えてゆくのを見て、言葉を失う。
手首、肘、肩、上半身と左足が消えてゆきとうとうコルバルトの腕までさしかかった時だった。
しゃっ、と白の大蛇が深紅の舌を出すと同時に美夜が弾かれて飛び出てきた。
短い悲鳴を上げる美夜を、コルバルトは咄嗟に受け止めて、肩を駆け抜ける激痛に顔を歪めた。
「どういうことです…? あなた、この子達に憎まれてます」




