7
「悲しいことはありませんでしたか?」
耳元で低い声が尋ねてきた。
ぴく、と美夜は反応し身体を硬くする。
「…なぜ?」
弓月は深い瞳で美夜を見返す。
「目が充血していますよ。それに寝不足のようだ」
赤いと指摘された目を伏せる。
「母が…死んでしまったものですから…」
無意識のうちに胸を押さえる。
手当てを終えた弓月は薬箱をしまう手を止めた。
「…すみません」
静かな声に、首を振って応えた。
「あれ、桜屋敷…アクセサリーなんかつけてるのか」
暗くなりかけた雰囲気のためか、観咲は話をかえた。
「あ…これ…」
鎖を引きベビーリングを取り出す。
「お、ベビーリングか。それ誕生石なんだよな。えっと…トパーズは何月だったっけ」
母さんの誕生日は七月二十日。だから七月の誕生石なんだろう。
「十一月ですよ。十一月生まれなんですか」
弓月がやわらかに言った。このベビーリングを美夜のものだと思っているらしい。
「え…え。私は十一月生まれですけど…けどこれは…」
母のもの。
美夜は北の地で両親と兄が心中し取り残された。身元を証明するものをなにひとつ持っていなく、なぜか名すら言えなかったらしい 名前を母さんはつけてくれた。誕生日も母さんが決めた。
「私のものであるはずが」
指輪を凝視した。その裏に何か刻まれていたのだ。
「11/2 …」」
誕生日を示すその数字は、美夜の誕生日と一致した。母が定めた誕生日…身元を証明するものはないはずなのに何を根拠に定めたのか。
そしてその横に刻まれているローマ字。
misaya H
名前、であった。
「そんな・・!」
あの日、なぜ名を言えなかったのか。なぜ目が痛かったのか。なぜ髪の色が違うのか。 指輪は鍵。
封じられた記憶を呼び起こすためのもの。
「嫌!」
鎖をつかみ激しい勢いで取る。そして外へ投げ捨てた。
「おい」
眩暈がした。観咲の声が遠い。
ネックレスに引っかけたのか、髪のゴムが外れ髪がほどける。
弓月が腕を伸ばすのと同時に、美夜は意識を闇に覆われた。