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    16

 赤い鳥居の下をくぐる石の階段を、男が二人降りていた。


「犯人の外見は少しばかりはっきりしたが、犯人の目的は霧に包まれたな」


 観咲の言いたいことがわかり弓月は頷く。


「『高齢である村人を狙う』という目的に、美夜さんは当てはまりませんからね。…それとも、拝み屋だから例外として狙われたんでしょうか」


「さあな…。それに美夜の右手に宿る母さんが書いた言葉もわからん。あれはなんだ? 願望か? 忠告か? 警告か? どうせ書くならもっと具体的に」


 弓月が立ち止まり、片手を上げて観咲の言葉を遮る。


「それですよ…」


「それってどれだよ? 『願望』か?」


「いいえ、そのあとです」


「『忠告』、『警告』、か?」


 弓月が頷く。

「それですよ。美夜さんはひとりになったから、狙われたんだ」


「おいおい、この村で部屋にひとりで寝ている人間が何人いると思ってるんだ?」


「この村は過疎化が進んでいる。ひとり部屋を与えられ易い十代や二十代の若者は出ていったのでしょう。

三十才を過ぎて村にいる者は結婚しているのでしょうし、していない者は肩身が狭くてやはり都会へ出ていくのかもしれない。今まで高齢者ばかり亡くなっていたのは当たり前の結果なんです。

この村に住む老人の数は、人口の半分は占めているはずですから」


 ふう、と観咲が深く息をついた。


「やっぱお前、頭いいわ。……ま、そう結論を急ぐな。それは今日の聞き込みではっきりさせよう」


「はい」


 そうして、二人は聞き込みへと向かった。

 ちなみに杉は村役場で過去に似たような事件がなかったかどうか調べに行かされている 美夜は昨夜観咲に言ったように、木と対話して情報収集をはかるという仕事だった。涼はそれについて行く。

 初音と新造には、涼が後から駆けつけた調査員その四ということにしてある。

 美夜は境内の石畳に立ち止まり、眼の前に林立する木々を仰いだ。

 風がそよぎ、木の葉がさざめく。

 だが美夜はその音に聴き惚れることもなく深い瞳で木々を見つめていた。

 それは、なにかひと離れした雰囲気を感じさせる。

 いうなれば、巫女。


「どうした」


 背後からかけられた声に、美夜は巫女からひとになる。

 そういえば涼がそばにいたのだと、思い出した。


「…引きずられる…。木の念に、引き込まれてしまいます。気がつくと、木と同化してしまう」


「話は聞けたのか」


 美夜に対して、なにか危ういものを感じた涼は、はやくこの場から美夜を離したいと感じて、急いた言葉を吐く。


「同化とは、私の意識が木になってしまうだけ。ひとであることを忘れてしまうだけ」


 ぼんやりと木を眺めたまま、呟く。


「美夜」


「ええ、わかっています。……わたしはひとですものね」


 自嘲ぎみに笑ってから、咎めるように肩眉を上げた涼が言葉を発しようとするのを遮って、言を継ぐ。


「…ああ…不安です。憐れな女が罪を重ねてゆく。……我々にとってはどちらも守るべき村人なのに」


「美夜!」


 神がかった口調で、訳のわからぬことを語り出した美夜の腕を涼が引き寄せて、木々から遠ざけようとする。


「これは木々の意識です。わかっています。私はこのことを聞く者でしたね」


 涼の腕をすりぬけて、止める間もなく美夜はそばの木の肌に手を伸ばした。

 はっ、と涼が息を呑んだ。

 瞬きすら許さぬわずかな隙に、美夜の姿は消えていた。



 

 いくら気を凝らしてみても、精霊達を服従させることはできなかった。

 そのことにさすがのミリオンも疲れていたため、精神集中をしていたはずなのに、少し離れた位置に立つコルバルトが、ふと気になるように顔を上げたことに気がついた。


「どうしたの、コルバルト」


「……緑の精霊が、さざめいている」


 数日ぶりに、彼の意志が言葉に宿ったことをミリオンは感じた。

 ここのところコルバルトは必要最低限の言葉しか口にせず、それさえも気持ちのこもらない機械的な口調だったのだ。


「中心はどこ?」


 ミリオンはコルバルトの様子が変わったことが嬉しくて、久々に彼女らしい生き生きとした眼を輝かせる。


「………あちらです。村のはずれ。なにか建物がありますね!」


 言い終えようとした途端、コルバルトは息を呑んでなにか呟いた。


「何? なんの精霊?」


 呟きから精霊という言葉のみ拾ったミリオンは、訳がわからず問い返す。

 だがその時にはもう、コルバルトは手に持ったステッキで、地面に円を書き終えていた


hairuハイル!」

「コルバルト!?」


 二人の叫びが山にこだまする。

 円の中へと沈んでゆくコルバルトの眼には驚愕するミリオンの顔など、映ってはいなかった。

 


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