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夢を見ているという自覚はあった。
あったけれども、夢の中では現実だった。 目の前に、女がいた。
歳は二十代後半といったところか。顔だちは整っていて、暖かな笑みを浮かべている。 胸に子供を抱いている。そこへなにか語りかけ、また微笑む。
女がこちらを振り向いた。
「ほら、パパですよー」
そう言って、子供を差し出してくる。
俺が…父親
呆然としているうちに子供を抱いていた。
「ママはミルクを作ってくるからね」
子供のほっぺたをそっと撫でて、奥の台所へと行く。
その後ろ姿を見送って、はっと気がついた
彼女と俺が夫婦なのか
女が誰なのか無性に知りたくなる。
俺の知り合いか
子供の父だと言われて呆然としていた時に見た、女の顔を思い出す。
まさか…まさか……、いや、都合がよすぎる。いくらなんでも
悶々としているうちに女が戻ってきた。
哺乳瓶を頬にあてて子供に笑いかける顔をじっと見る。
に…似ている。
心当たりのある名前を思い浮かべて、緊張して喉を鳴らす。
「み・美夜?」
「はい?」
きょとんと見上げられ、心臓が跳ね上がった。
妻 夫婦 子供 夢じゃないのか
「なぁに? ……あなた?」
幸せすぎる
ガツッ、と、突然頭に衝撃が走った。
途端に視界はなんの変哲もない天井に変わる。
「涼さんっ そんな乱暴なことしちゃだめです」
声のした方を向いて、慌てて起き上がった
「おはようございます。頭、大丈夫ですか」
心配そうに顔を覗き込んでくる少女に、衝動的に手を伸ばした。
幸せをかみしめるためだったような気もするし、妻なのかどうか聞くつもりだったような気もする。
どちらにしろ、横から飛んできた枕によって、抱き寄せることはできなかった。
さきほどの衝撃は、この枕が抜き取られたせいだと、弓月は気がつかない。
「涼さん」
美夜の声に枕を投げた涼はそしらぬふりを決めこむ。
「うーん、今のはどう見ても弓月が悪いなぁ美夜、こっちにきなさい。起きぬけの弓月はケダモノだから」
「? あ、兄さん、シャツの襟が曲がってるわ」
観咲の言葉の意味がよくわからないまま、美夜は弓月のそばを離れて観咲の背後へ回り込む。
「お、すまんな」
美夜の手が届くようにと観咲がしゃがむ。
その二人を弓月がぼーっと眺めていると、顔に枕を押しつけられた。
「!っ」
顔から退けると冷ややかな赤い目と合った 世話を焼かれている観咲が羨ましく感じたことを、見透かされているような目だった。
「お前…いつの間に」
「お前にお前呼ばわりされたくない」
ふん、と涼は顔を背ける。
「なん・・」
「おらおら、弓月。早く顔洗ってこいよ」
声を荒げかけた弓月を遮って、観咲が呑気に言う。
返事代わりのため息を返して、弓月は布団をたたむ。
美夜がそれを手伝ってくれた。
「風車さんと涼さんって仲がいいんですね」
その言葉に、弓月はあっけに取られて美夜を見返し、涼は嫌そうな顔を美夜に見られないように背けた。観咲はげらげらと笑い、その頭上をシキが飛んでいた。
九時過ぎにやってきた杉の報告によると、その夜の犠牲者はひとりもいなかったという とりあえずは、そんなふうに笑っていてもよかった。
ただ、犠牲者になりかけた者がいることを観咲と弓月、そして涼だけは肝に銘じていた
この村に今回の事件と関係あるような言い伝えや昔話があるかどうか、昨夜聞きそびれたことを朝食の時に聞いてみたが、初音も新造も知らないと言った。
そのため、美夜が見たモノに関係する話も含めて、今日は村の住人に聞き込みをすることにした




