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    13

 ボードを凝視したまま、観咲は大きく息を吐いた。


「間違いない。こりゃ母さんの字だ」


「なるほど。美夜さんの右手に宿った母上が、それを伝えようとしたのでしょうか」


 二人は書かれた文字の意味を考える。


「『ひとりにしないで』…か。…誰をだ?」


「それは…やっぱり…」


 美夜さんでしょう、と言いかけた言葉は遮られた。

 窓になにかがぶつかる音がして、観咲はおそるおそるカーテンを開き、曇りガラスを開いた。

 途端、羽音と共に、黄緑色の鳥が飛び込んできた。


「あ! こいつはっ」


 部屋の中を慌ただしく飛び回る鳥は、光が美夜にプレゼントしたものだ。


「シキ…?」


 美夜が名づけた名前を弓月が呼ぶと、シキは高らかに一度鳴いて、壁に身体を打ちつけた。


「お・おい! シキっ 大丈夫か」


 床に落ちたシキは再び飛び上がると、同じ事を繰り返す。


「一体、お前は何が言いたいんだよ…」


 困惑して、観咲はシキを見る。


「! 観咲、そちらは美夜さんの」


 部屋ですよ、と言いかけて、丁度指していた方であがった物音に言葉を切る。


 どさ、という倒れ込むような大きな音だ。

 二人は一瞬顔を見合わせ、慌てて部屋を飛び出した。

 美夜のために用意された部屋は、八畳ほどの和室だった。

 障子を開くなり、きな臭い匂いが漂う。そして肌を刺すような冷気が流れてきた。

 部屋の中央に敷かれた布団と、その上に投げ出された四肢が、月の光に照らされて白く浮かび上がる。

 そこにひとがいるはずなのに、なにか静か過ぎた。不吉なほどの静かさだ。

 その静寂を打ち破るような勢いで、二人は乱れた布団の上に倒れている美夜に駆け寄る


「美夜!」


 抱き起こした観咲は、この部屋が静かだった理由を悟る。

 息をしていない。


「美夜……美夜」


「観咲、退いて下さい」


 美夜の首に触れ、脈を確認する。

 観咲が腕を離して美夜を横たえる。

 不自然な格好だったので楽な姿勢にすると弓月がほっと息をついた。


「呼吸を始めました。………よかった」


 観咲も長い息を吐く。

 二人がかりで美夜を布団に寝かせると、美夜の呼吸は正常に戻った。

 ここは離れだったために、初音や新造にまで騒ぎが届かなかったらしい。

 彼ら以外に動くものの気配はもうなかった いまだ不安は残っていたものの、とりあえずは落ち着いた二人は、暗い室内で無言になる。それぞれの中にある推測が浮かんだ。

 観咲はそれを、確認せずにはいられなかった。


「なぁ、弓月…。美夜は…まさか…」


 最後まで言えずに言葉を途切れさせた観咲に向かって、弓月はしっかりと頷いてみせた


「おそらく。一連の犯人に襲われたのだと思います」


 やはりそうか、と横たわる美夜に視線を映した観咲が身を乗り出した。


「美夜?」


 覗き込む人影に、目覚めた美夜は飛び起きてじりじりと後ろへさがる。

 美夜を気づかい、ルームランプは消したままだったので、誰だかわからないのだろう。


「美夜、大丈夫か? 俺だぞ?」


 わからないのか、と言いながら近寄ろうとすると、美夜は怯えて嗚咽をもらしつつまたさがる。

 その時、壁にはめこまれたルームランプがついた。

 内心弓月に感謝しつつ、美夜に笑いかけようとした観咲の動きが凍った。

 泣きながら観咲を見上げる美夜の白い顔、そして白い首。ただ、首にはくっきりと赤い線が横切っていた。


「兄さん…」


 美夜は観咲に抱きついた。

 まだ兄の方がいいのか、と駆け寄りかけた体勢を整え、美夜の背にまわされた優しい手を弓月は見た。

 殺気を感じた。

 その優しい兄の手以外の場所から感じた。

 そして自分の全身から感じた。


 必ず、犯人を、退治する。


 二人の心に、同じ言葉が強く刻まれた。


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