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食事を終えた後、弓月は風呂へ入りに行き観咲は美夜の話を聞きながら、部屋の端に布団を敷いた。
「おーけー、わかった。では明日美夜は木に聞いてくれ。俺はもー寝る」
気怠い様子で、服を着たまま布団にもぐり込む。
「はい。…あ、私はどうすれば?」
「二時まで起きているように。二時になったら俺と交代。弓月は四時にな
ったら寝るようにしよう。二時からはずっと寝てていーぞ」
言うなり観咲は背を向ける。
美夜は小さく返事をして、すぐに寝息をたて始めた観咲から離れる。
二時までには、まだ五時間もあった。
しばらくして風呂から戻ってきた弓月は、しっかりと心の整理を済ませたようで、夜に美夜とふたりきりになっても冷静な態度を崩さなかった。
弓月の内なる葛藤と努力になどまったく気づかずに、眠気ざましにボードへとりとめのないことを書いているうちに、美夜は居眠ってしまった。
はっと起きると、もう午前二時になる寸前だった。
泣きそうな顔で向かいに座る弓月を見上げると、苦笑していた。
「部屋に戻って眠っていいですよ」
「ごめんなさい……」
落ち込んではいたが、眠気に耐えられなくてテーブルの上を片づける。
ボードを手に取り、ふと動きを止めた。
「『ひとりにしないで』……?」
ぎょっとして弓月が身体をこわ張らす。
「ど・どーいう」
心に掲げた決心が揺らぐのを感じながら、期待を込めて問う。
「ここに…、ほら」
弓月の動揺などに気づかずに、美夜はボードを指さす。
そこには流麗な字で『ひとりにしないで』と書かれていた。
「風車さんが書いたんじゃ…ないですよね」
即座に首を振る弓月を見て、首をひねる。
「私、こんな達筆な字は書けないし…」
ふぅ、となにやら重いため息をつく弓月を見上げて、疲れているのだと思いこむ。
「ご・ごめんなさい。私、もう寝ますね」
自分がそばにいると気を使わせてしまい、弓月をよけいに疲れさせてしまうのでは、と思った美夜は慌てて立ち上がる。
それはある意味で、正しかった。
美夜が部屋を出て行って隣の部屋で物音が途絶えると、弓月はようやく身体の力を抜くことができた。
よつんばいになりながら観咲の元へと張って行き、鼻をつまんでやる。
「っはっ!」
ひいはあ、と口からいっぱいに空気を吸い込みながら、観咲が起き上がった。
「いつかのお返しです」
「陰険な奴め…。美夜に優しく起こして貰いたかったなぁ」
美夜の起こし方を知っている弓月はひそかに笑う。
その笑いが気に食わなかったのか、観咲は寝起きの目つきの悪さで弓月を睨む。
「俺が寝てるそばで、美夜に手ぇ出さんかっただろーなぁ」
ぴし、と青筋をたてて観咲を睨み返す。
「俺がどれほど我慢したか、わからないんですか!」
にやにやと笑って観咲は弓月の肩を叩く。
「ご愁傷さま」
弓月はふん、と顔を背けてテーブルへ戻る
「ああそうだ。美夜さんが寝ぼけて書いたのかもしれませんけど、本人は違うと言っていました」
ボードを渡すと、観咲はふぅぅ、とため息をついた。
「うーん、美夜もなかなか情熱的な」
「ち・違いますよっ! こんな字はかけないって言っていましたっ」
「お前…、顔がにやけてるぞ。実は美夜が書いたんじゃないかなーとか思ってるだろう。幸せな奴だなぁ。美夜がこんなこと書く性格じゃないこと知ってるだろ?」
むっとして、弓月は観咲をねめつける。
「じゃぁ、誰が書いたっていうんですか?」
肩をすくめて、観咲はボードを再び見る。
「あれ?」
首をひねる観咲に視線で問う。
「んー? なんかどっかで見た事あるような気がする」
「まったまた」
あくまで美夜が書いたものとしたい弓月は信じない。
だが観咲は、そんな弓月の言葉に耳を貸さずに、頭をひねっていた。
他愛もない雑談をしながら、はや一時間が過ぎていた。
相づちをうちながらも、観咲はボードが気になるようで、見つめている。
「あ!」
と、声をあげて観咲はボードを手に取り凝視した。
「わかったんですか?」
「これは……」




