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    11

 食事を終えた後、弓月は風呂へ入りに行き観咲は美夜の話を聞きながら、部屋の端に布団を敷いた。


「おーけー、わかった。では明日美夜は木に聞いてくれ。俺はもー寝る」


 気怠い様子で、服を着たまま布団にもぐり込む。


「はい。…あ、私はどうすれば?」


「二時まで起きているように。二時になったら俺と交代。弓月は四時にな

ったら寝るようにしよう。二時からはずっと寝てていーぞ」


 言うなり観咲は背を向ける。

 美夜は小さく返事をして、すぐに寝息をたて始めた観咲から離れる。

 二時までには、まだ五時間もあった。

 しばらくして風呂から戻ってきた弓月は、しっかりと心の整理を済ませたようで、夜に美夜とふたりきりになっても冷静な態度を崩さなかった。

 弓月の内なる葛藤と努力になどまったく気づかずに、眠気ざましにボードへとりとめのないことを書いているうちに、美夜は居眠ってしまった。

 はっと起きると、もう午前二時になる寸前だった。

 泣きそうな顔で向かいに座る弓月を見上げると、苦笑していた。


「部屋に戻って眠っていいですよ」


「ごめんなさい……」


 落ち込んではいたが、眠気に耐えられなくてテーブルの上を片づける。

 ボードを手に取り、ふと動きを止めた。


「『ひとりにしないで』……?」


 ぎょっとして弓月が身体をこわ張らす。


「ど・どーいう」


 心に掲げた決心が揺らぐのを感じながら、期待を込めて問う。


「ここに…、ほら」


 弓月の動揺などに気づかずに、美夜はボードを指さす。

 そこには流麗な字で『ひとりにしないで』と書かれていた。


「風車さんが書いたんじゃ…ないですよね」


 即座に首を振る弓月を見て、首をひねる。


「私、こんな達筆な字は書けないし…」


 ふぅ、となにやら重いため息をつく弓月を見上げて、疲れているのだと思いこむ。


「ご・ごめんなさい。私、もう寝ますね」


 自分がそばにいると気を使わせてしまい、弓月をよけいに疲れさせてしまうのでは、と思った美夜は慌てて立ち上がる。

 それはある意味で、正しかった。

 美夜が部屋を出て行って隣の部屋で物音が途絶えると、弓月はようやく身体の力を抜くことができた。

 よつんばいになりながら観咲の元へと張って行き、鼻をつまんでやる。


「っはっ!」


 ひいはあ、と口からいっぱいに空気を吸い込みながら、観咲が起き上がった。


「いつかのお返しです」


「陰険な奴め…。美夜に優しく起こして貰いたかったなぁ」


 美夜の起こし方を知っている弓月はひそかに笑う。

 その笑いが気に食わなかったのか、観咲は寝起きの目つきの悪さで弓月を睨む。


「俺が寝てるそばで、美夜に手ぇ出さんかっただろーなぁ」


 ぴし、と青筋をたてて観咲を睨み返す。


「俺がどれほど我慢したか、わからないんですか!」


 にやにやと笑って観咲は弓月の肩を叩く。


「ご愁傷さま」


 弓月はふん、と顔を背けてテーブルへ戻る


「ああそうだ。美夜さんが寝ぼけて書いたのかもしれませんけど、本人は違うと言っていました」


 ボードを渡すと、観咲はふぅぅ、とため息をついた。


「うーん、美夜もなかなか情熱的な」


「ち・違いますよっ! こんな字はかけないって言っていましたっ」


「お前…、顔がにやけてるぞ。実は美夜が書いたんじゃないかなーとか思ってるだろう。幸せな奴だなぁ。美夜がこんなこと書く性格じゃないこと知ってるだろ?」


 むっとして、弓月は観咲をねめつける。


「じゃぁ、誰が書いたっていうんですか?」


 肩をすくめて、観咲はボードを再び見る。


「あれ?」


 首をひねる観咲に視線で問う。


「んー? なんかどっかで見た事あるような気がする」


「まったまた」


 あくまで美夜が書いたものとしたい弓月は信じない。

 だが観咲は、そんな弓月の言葉に耳を貸さずに、頭をひねっていた。

 他愛もない雑談をしながら、はや一時間が過ぎていた。

 相づちをうちながらも、観咲はボードが気になるようで、見つめている。


「あ!」


 と、声をあげて観咲はボードを手に取り凝視した。


「わかったんですか?」


「これは……」


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