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    9

 この村の派出所に泊まっていると言い残して杉が帰った後、観咲と弓月は打ち合わせをしていた。


「共通点は、高齢であることと、死因、死亡時刻、そして踏み台がないこと、か」


 美夜が書き出した概要を見ながら、観咲がぼやいた。

 杉には偉そうなことを言ったものの、解決の糸口は見つけられない。

 今夜にも、またひとりの犠牲者がでるかもしれないのに。


「……地図があったほうがいいですね。岸本さんに頼んできます」


「おう」


 なにやら呟きながら頭をひねる観咲を残して、弓月は廊下に出た。

 とりあえず美夜と初音が向かった方へと歩いていき、途中居間をみつけたが誰もいなかった。

 適当に歩いていくと、勝手口が開かれていた。その向こうでひとの気配がする。

 下駄を拝借して勝手口から出ると、檜造りの窓の柵から湯気が出ている下で、初音が薪を拾っていた。

 何気なく檜造りの窓から視線を外し、なにも考えずに初音に声をかけた。


「岸本さん、この村の地図とか、ありませんか?」


 突然聞こえた声に驚いて、湯舟につかっていた美夜は身体を硬直させる。


 ぱしゃん、と水音が響いた。


 弓月はその音で、今美夜が入浴中だと思い出す。


「ああ、はいはい。ちょっと待ってくださいねぇ」


「お・俺が持ちます」


 らしくもない『俺』という言葉をつかってぎくしゃくと初音から薪を受け取る。


「あら、まあ、すみませんねぇ」


 二つの足音が遠ざかり、美夜はようやく緊張を解いた。

 けれどすぐに、逃げるようにして湯舟を出る。

 裸であることが、なぜかとても気恥ずかしく感じたのだ。



 美夜が部屋に戻った時、観咲が顔を上げた「いい香りだな」

 テーブルに向かってなにやら書き込みをしている弓月は顔をあげない。


「ごめんなさい、先に入ってしまって」


 視線は向けなくとも、つい弓月のことを気にしてしまう。

 顔が赤いのは、湯上がりのせいばかりではないだろう。


「いーのいーの。次は俺が入るから」


 観咲は部屋を出ていこうとして、襖に手をかけた姿勢で振り向いた。


「初音さんから、なにか聞き出せたか?」


 はっとして、美夜は観咲を見上げた。

 軽く頷き返し、弓月を見る。


「弓月、頼むな」


「はい」


 絡みつくような眠気に襲われていた観咲は弓月の声が妙に硬いことに気づかずに、眠気ざましの風呂へと向かった。


不自然な咳払いをして、弓月はボードを取り出す。

 美夜はもう気持ちを切り替えて、要領よく初音の言っていたことを話すが、意識して視線を合わせないようにしている弓月は、どこか緊張している。


「そういえば、来た時に寄った隅田さんのお家のお子さんが、お祖父様と釣りへいく約束をしていたと言っていました。やはり一連の事件は自殺で

はないのかもしれませんね」


 弓月はどうにか緊張を押え込み、仕事へと意識が集中する。


「問題は、これらの事件の原因です。高齢の方を標的とした呪いなのか、それとも高齢の方を首吊りさせるという霊的ななにかの仕業なのか……」


 テーブルの上に置かれたボードの、美夜が初音から聞いたという話の概要を書き留めた紙をめくり、なにも書かれていない頁に『呪い』と『霊的ななにか』と書き出す。

 弓月の話を聞きながら、その二つの文字を見つめて美夜は考え込む。


「なぜ、今なんでしょう」


 呟かれた言葉に、弓月は視線で問いかける


「呪いにしろ霊的ななにかにしろ、一週間前に動き出すというきっかけがあったはずじゃないですか? しかもこんなに標的が明らかなのに、村の方達は『普通の死』に対する反応だけです」


「『村の高齢者』が標的なようなのに、村人には思い当たることがないようだ、と言いたいんですね?」


 頷く美夜を、内心感心しつつ見る。


「噂とかがあってもよさそうなのに…」


「後で岸本さんにでも聞いてみましょう」


 ボードの紙に、『伝承について』と書き込まれた。

 再び二人は思索にふける。


「霊的ななにかの仕業、なのかな」


 弓月の呟きの根拠がわからなくて、美夜は首を傾けてみせた。


「踏み台なくして、天井の梁に縄をかける方法なんてないでしょう?」


「なにかのトリックでも使ったんでしょうか…でも、皆が使う理由なんて

ないですよね」


 弓月はなにやら考え込みながら、杉に渡された数枚の資料を読む。



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