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「そして妙な共通点がひとつ。……どの自殺にも、踏み台がありません」
言われた内容と投げかけてくる視線に、弓月は眼をすがめた。
「不可解な自殺それをあなたがたなら解決してくださると思いまして、依頼しました」
「あなたは」
「どうかなさいましたか」
弓月がなにか言いかけたのに気づかないのか、それともわざとなのか、この部屋と廊下を仕切る襖に向かって美夜が声をかけた。
襖に影が過ぎり、観咲や弓月はひとの気配に気づいた。
襖がそっと開かれ、初音が顔を出した。
「お話し中すみません…、お風呂の用意ができましたよ」
「それはわざわざありがとうございます。美夜、入らせていただきなさい」
観咲に目配せされて、美夜は頷き初音の後についていく。
襖が閉められ足音が遠ざかってから、観咲は杉を睨みあげた。
「まったくうざったい奴だな。あんたが俺たちを信用しようとしなかろうと、俺たちにはどうでもいいことだ。いちいちつっかかるなよ」
営業用の殻を破り、ぞんざいな口調で杉に言い放つ。
「な」
「大体信用していないなら、我々に依頼などしなければいいんです」
杉がなにか言いかけたのを遮り、弓月が鋭く言う。
気を高ぶらせている弓月を手でなだめ、面食らっている杉に笑いかける。
「刑事さんが拝み屋を信用しない気持ちはわかる。ただの一般人なら、むしろ信用していないほうがいいだろう。訳のわからん壺や掛け軸を売りつけられたりしないようにな。
でもあんたは刑事だ。拝み屋が関わる事件がまた起きるかもしれない。その時のために本物の拝み屋を知っておいたほうがいいぞ」
杉はその言葉に顔を歪ませた。
「……お手なみ拝見といこうじゃないか」
挑発的なせりふに、観咲と弓月は嘆息した
長い廊下を先に立ち案内する初音は、なにやら思いつめたように沈黙していた。
その背中を見つめ、美夜は気づく。
この方は……立ち聞きしていたのかもしれない。
そして立ち聞きしてしまうような理由が、ただ怪奇な事件を恐れてのものだけとは思えなかった。
「ここですよ」
廊下のつき当たりにあったガラス戸を開ける。
そして脱衣所を通り過ぎ、奥にある引き戸を引くと、脱衣所まで立ち昇ってきた湯気を気にせずに風呂場へと入っていった。
やがてお湯をかき混ぜる音がする。
「……キヨちゃんは…」
初音の声が、風呂場に響いた。
美夜は引き戸から風呂場を覗き込むようにして立っていた。
「川崎キヨは、私の幼なじみでした。年金を少しずつためては、よく一緒に旅行へ行きました。……来月には、温泉へ旅行する予定だったんです。…自殺なんて、するはずがないんです」
その淡々とした口調がとても哀しげで、美夜は美枝を失った時の感情と重なり、胸に熱いものが込み上げるのを我慢できなかった。
「わかり…ました。一刻も早く…解決できるよう……」
声までもが潤み、最後まで言葉を続けられなかった。
その肩を、枯れ木のような手が軽く叩いた
「ありがとうございます。……さぁ、冷めないうちに入ってくださいな」
頷く美夜の頭を撫でて、初音はそっと脱衣所を出て行った。




