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眼下に村を一望できる山頂に、ふたつの人影があった。
大きめのコインを手に直立不動の者は、背は小さいが男のようだ。反対にせわしなく長い黒髪をいじっているのは、その豊満な身体つきから女だとわかる。
それまでじっとして佇んでいた男が、突然構えていた腕を下ろし、緊張させていた身体の力を抜き、ため息をついた。
「コルバルト、原因がわかったの?」
きつい口調でミリオンが言った。
「精霊が……支配されるのを拒みました。…昨日までは、少し支配できたのに」
ミリオンは苦々しげに顔を歪める。役たたず、と顔にでかでかと書いてある。
それに気づいたコルバルトは、なにも言わずに顔をそむけた。
彼は緑の魔女と呼ばれるほど、緑の精霊に対して巨大な支配力を持っていたのに、このざまである。
自尊心が深く傷ついていた。
「まったく、妙な国だこと。こんなに頑固な精霊ばかりだなんて」
ミリオンもまた精霊を支配できずにいた。 だから自然と口調に刺が混じる。
「この村で何かが起こっていることはわかるのに、何が原因かはわからないだなんて、忌々しいったらないわ」
普段から無口なコルバルトが、最近いっそう口数が少なくなったのが気になるのか、ミリオンは沈黙が訪れる度に、この国を罵倒する。
彼らしくもなく、そんなミリオンの思いやりに気づかずに、コルバルトは無言で村を見下ろした。
ミリオンが音もなく、ため息をついた。
その神社は、白龍という名だった。
階段から続く石畳はよく掃き清められて、敷地内の庭も手入れが行き届いていた。
境内の裏手にまわると、古い木造の日本家屋があった。
閑静とした趣のあるその雰囲気が、どこか不安な美夜の心を落ち着かせた。
家主は温和そうな老夫婦で、一行を暖かく迎えてくれた。
観咲達は拝み屋と紹介する訳にもいかないので、警察関係者である調査員だと説明した どう見ても
十代の美夜は違和感があったが幸いにも老夫婦は疑問に思った様子はなかった。
「岸本新造と申します。これは家内の初音です。遠いところご苦労様でした」
顔や手に刻まれた深い皺は、彼の生きてきた年数を教えてくれる。
だが新造は高齢にもかかわらず、現役の神主なのだそうだ。
その凛とした背筋や眼の輝きに、神主たる威厳を感じさせた。
一通りの挨拶をすませ、一行は初音に部屋へと案内された。
「刑事さん方がきて下さってよかった。こんな痛ましい事件は、早く終わるといいですねえ……」
そう言い残して、初音はぽっちゃりとした身体を揺らして戻っていった。
その時の哀しげな顔に、美夜は胸が痛んだ 広い和室には、壁に額縁つきの日本画が飾られ、床の間
には達筆な字でなにか書かれた掛け軸が飾られており、その前にひっそりと花が生けてある。おそらく初音が生けたのだろう。
「それじゃあ、詳しい事を聞こうか」
部屋の中になど目もくれずに、荷物を置くなり観咲は言った。
彼らの仕事は、一刻も早くこの村で起こっていることを調べ解決することだと、痛いほど知っているからだろう。
観咲もまた、初音の表情に胸を痛めていたのかもしれない。
「まず、事件が起こったのは一週間前です。昨日までで七人亡くなっています」
杉は手帳を取り出しながら、言う。
弓月からボードを受け取り、美夜がそこへ概要を書いていく。
「最初に亡くなったのは、村瀬剛吉八十一歳……いずれも共通していることですが、死因は窒息死。死亡推定時刻は午前一時から五時までの間です」
そこで一旦言葉を切り、美夜が書き終えるのを待ちつつ、手帳のページをめくる。
「次いで、川崎キヨ七十歳、小山義道八十五歳、木村八郎七十八歳、花田善三八十歳、近藤宗一七十五歳、隅田太郎八十三歳の順に亡くなっています」
また言葉を切り、美夜を見る。
その気配りが弓月の勘に触ったが、大人気ないことはわかっているので我慢して無表情を装う。
「村瀬、木村、花田の三名は独り暮らしだったので近所の方に聞きましたが、家族の方の話によると誰もが『自殺するようにはみえなかった』と言っています。特に遺書もなく、自殺する素振りらしいものも、なかったようです」
手帳を閉じ、杉は観咲と弓月を見る。
その眼に、二人に対する不信感がよぎったのを、弓月は見逃さなかった。




