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    6

「…なの」


 幼い声が訴えるように何かを言っていた。


「…お祖父様はあなたを愛していらっしゃいますよ」


 澄んだ強い声に、泣いていた子供は眼もとを拭う手を止めた。


「本当に?」


「本当です」


 にっこり、と美夜が笑うと子供はその笑顔に見入る。


「……美夜、行くぞ」


 観咲の言葉に、美夜が頷くのを見て杉が驚いて観咲を見上げた。


 その視線を無視して、観咲は車に乗り込む 子供の頭を優しく撫でる美夜へ、知らず視線を移しながら杉は喉を鳴らした。


「先導をおねがいします」


 さっさとてめえの車に乗れ、と言わんばかりの眼で睨まれて、ようやく杉は自分の車へ乗り込んだ。

 美夜と別れた子供は、白い花輪の間を通って帰っていった。


「あの家の子でした。お祖父様が亡くなられたそうです」


「………そうか」


 美夜にとっては数カ月前に、義理の母親を亡くしたのだと知っている二人は、気をきかせて無口になった。


 杉の運転する車に案内され着いたのは、鳥居の下に続く階段の前だった。


 その階段の先に、宿泊所である神社があるそうだ。


 忍びくる夜の群青に影を濃くする境内の木々を、美夜は荷物を抱えたまま見上げた。


 木々を見渡すうち、えもいえぬ不安が込み上げる。


 ……なんだろう、この気持ちは。


「下から見上げると随分と多い階段のように感じますが、いざ昇ってみるとそうでもありませんよ。荷物、持ちましょう」


 いつの間にか隣に立っていた杉が、素早く美夜の荷物を持つ。


 杉はどうやら、ぼんやりしている美夜が階段の多さにあきれていたのだと、勘違いしたらしい。


「あ、あの、そんな……」


 戸惑う美夜に、にっこりと笑いかけて階段を昇る。美夜もつられて昇り始めた。


 その後ろ姿を見上げて、観咲は鍵をかけている弓月を肘でつついた。


 運転席の鍵穴から鍵を抜き出して、弓月は観咲の視線を追う。そして、すっ、と眼をすがめた。


 お前がトロトロしてるからだぞ、という観咲の無言の言葉はわかっていた。


「公私は分けるんでしょう?」


 感情の読ませない静かな口調で言うと、荷物を両手に抱えながら階段を昇り始めた。


 口調とは裏腹に、弓月の足取りは荒々しい 観咲は吹き出すのを堪えながら、後を追った。


 悪いとは思いつつも、杉の話に曖昧な反応を返しつつ、美夜は境内の木々から目を離せないでいた。


 土地の違いのせいかもしれないが、どうも木々の様子が変なのだ。


 木々を眺めていると、重苦しい不安が心にのしかかってくるような気がした。


 美夜が立ち止まったのは、誰もがすぐに気づいた。


 杉は懸命に美夜の気をひこうとしていたせいだし、弓月はそんな杉を睨み付けていたせいだった。そして観咲はそんな三人を観察していたからだ。


「どうしました?」


 杉の問いに、美夜はしなやかな腕を上げて木々の間を指さした。


「道が、あるんです」


「ああ…」


 本当だ、と杉は頷く。そしてそれがどうかしたのか、と美夜を見る。


「獣道……のようですね」


 追いついた弓月が言うと、美夜は振り向いた。


「けもの…みち?」


「獣が何度も歩いたために、できた道のことです。ひとが歩いてできた道のことも、そう呼びます。気になるのですか?」


 弓月の言葉に美夜は素直に頷く。


「では見てきましょうか」


 美夜の桜屋敷一族の力はまだ未開の部分がある。


 美夜がこうして気になるのは、桜屋敷の力によるものかもしれないのだ。


 つまり、その獣道の先になにかある、と力が告げているのかもしれない。


 そう思って荷物を置こうとした弓月を、美夜が慌てて止めた。


「いいえ、あの、気のせいでしょうし。弓月さんも兄さんも疲れているんですから、早く上へ行きましょう」


「私は寝ていたんですけどね」


 美夜が気にかけてくれたことが嬉しくて、知らず顔を緩ませながら、美夜の頼み通り行くのは止める。荷物を抱え直してから、美夜と並んで弓月が歩いた。


「あんな格好では、熟睡できるはずありませんよ」


「慣れてますから、大丈夫ですよ」


 そんな二人を、杉は複雑な顔で見、黙々と階段を昇っていった。


 やはり、独身生活からは抜け出せそうにもないと、思いながら。

 


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