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二人が下りていくと、朱人がひらひらと手を振りつつ迎えた。
「げっ 親父」
「よぅ、馬鹿息子」
二人がソファーに腰を下ろすと、美夜がコーヒーを運んできた。
「依頼人って、親父のことだったのか」
「うーん、美夜は益々奇麗になるなぁ」
手招きして美夜を隣に座らせる。
「ジジくせーぞっ 親父っ てめー、何美夜の手なんぞ握ってんだよ!」
身を乗り出して喚く観咲に肩をすくめ、朱人は握っていた美夜の手を放す。そしてこちらを見ていた弓月を見返して、にやりと笑った。
「…」
ばれてる…。
と、弓月は鋭く直感した。
「これは…?」
いつの間にか腕に巻かれた白い紐を見つめて、美夜が呟いた。
「お守りだよ。さて、仕事の話をしようか」
朱人の顔が父親から仕事人へと変わる。
その場の雰囲気もまた、引き締まった。
朱人は住所の書かれたメモを取り出した。
「近頃この村では、自殺による死亡が多発しているらしい」
『死』という言葉を聞き、美夜は柳眉をひそめる。
「死因はいずれも窒息死つまり、皆首吊り自殺によって亡くなっている」
「依頼人は?」
観咲は美夜の表情にあえて気づかぬふりをして、問う。
この仕事をするつもりなら、こういった話にも慣れなくてはならないのだ。
「警察だ。できるだけ早く行ったほうがいいな」
「というと?」
弓月が聞き逃さずに鋭く尋ねる。
さすがの朱人も隣に座る彼の娘を気づかい一瞬躊躇した。
「………一日にひとりは亡くなっている」
音もなく緊張が走った。
美夜を同行させるべきか、観咲と弓月は一瞬迷う。だがすぐに、互いに同じ結論へ達した。
公私は分ける、と誓ったのだ。危険そうだからといって留守番などさせらせない。それは美夜を裏切ることになる。
護身用の結界の張り方も教えた。
いざとなれば、身を挺してでも守り切る自信はある。
「よし、じゃ、すぐに用意しよう」
観咲のきっぱりとした言葉を皮切りに、それぞれが動き出した。
同行できることに美夜はほっとしつつ、トレイにカップを集めてキッチンで手早く洗う 背後に気配を感じて振り向くと、朱人が立っていた。
深い瞳で美夜を見つめる。
小首を傾げてみせると、小さく笑った。そしてふと表情を引き締める。
「気をつけるんだよ」
心配されているのだと知り、はにかみながら頷く。
朱人は再び微笑み、背を向けて去っていった。
「頼んだぞ」
ドアに向かったまま、呟く。
「頼まれなくたって、守るさ」
観咲はソファーに座ったまま、応える。
「ゆみちゃんが?」
「俺も」
「骨くらいは拾ってやる。気をつけろよ」
そう言い残し、返事も待たずに朱人はドアの向こうへ消えた。
「…おう」
ロードマップを見下ろしつつ、観咲は小さく応えた。




