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    4

二人が下りていくと、朱人がひらひらと手を振りつつ迎えた。


「げっ 親父」


「よぅ、馬鹿息子」


 二人がソファーに腰を下ろすと、美夜がコーヒーを運んできた。


「依頼人って、親父のことだったのか」


「うーん、美夜は益々奇麗になるなぁ」


 手招きして美夜を隣に座らせる。


「ジジくせーぞっ 親父っ てめー、何美夜の手なんぞ握ってんだよ!」


 身を乗り出して喚く観咲に肩をすくめ、朱人は握っていた美夜の手を放す。そしてこちらを見ていた弓月を見返して、にやりと笑った。


「…」


 ばれてる…。

 と、弓月は鋭く直感した。


「これは…?」

 いつの間にか腕に巻かれた白い紐を見つめて、美夜が呟いた。


「お守りだよ。さて、仕事の話をしようか」


 朱人の顔が父親から仕事人へと変わる。

 その場の雰囲気もまた、引き締まった。

 朱人は住所の書かれたメモを取り出した。


「近頃この村では、自殺による死亡が多発しているらしい」


 『死』という言葉を聞き、美夜は柳眉をひそめる。


「死因はいずれも窒息死つまり、皆首吊り自殺によって亡くなっている」


「依頼人は?」


 観咲は美夜の表情にあえて気づかぬふりをして、問う。

 この仕事をするつもりなら、こういった話にも慣れなくてはならないのだ。


「警察だ。できるだけ早く行ったほうがいいな」


「というと?」


 弓月が聞き逃さずに鋭く尋ねる。

 さすがの朱人も隣に座る彼の娘を気づかい一瞬躊躇した。


「………一日にひとりは亡くなっている」


 音もなく緊張が走った。

 美夜を同行させるべきか、観咲と弓月は一瞬迷う。だがすぐに、互いに同じ結論へ達した。

 公私は分ける、と誓ったのだ。危険そうだからといって留守番などさせらせない。それは美夜を裏切ることになる。

 護身用の結界の張り方も教えた。

 いざとなれば、身を挺してでも守り切る自信はある。


「よし、じゃ、すぐに用意しよう」


 観咲のきっぱりとした言葉を皮切りに、それぞれが動き出した。

 同行できることに美夜はほっとしつつ、トレイにカップを集めてキッチンで手早く洗う 背後に気配を感じて振り向くと、朱人が立っていた。

 深い瞳で美夜を見つめる。

 小首を傾げてみせると、小さく笑った。そしてふと表情を引き締める。


「気をつけるんだよ」


 心配されているのだと知り、はにかみながら頷く。

 朱人は再び微笑み、背を向けて去っていった。


「頼んだぞ」


 ドアに向かったまま、呟く。


「頼まれなくたって、守るさ」


 観咲はソファーに座ったまま、応える。


「ゆみちゃんが?」


「俺も」


「骨くらいは拾ってやる。気をつけろよ」


 そう言い残し、返事も待たずに朱人はドアの向こうへ消えた。


「…おう」


 ロードマップを見下ろしつつ、観咲は小さく応えた。

 

 

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