3
「本当に美夜は掃除好きだな」
掃き清められた階段を上り切り、事務所のドアを見た。
『秋津事務所』と書かれた字も、以前より見易くなっている。ここも掃除をしたのだろう。
ドアを開くと、涼しげな鈴の音が響いた。
「はい。あら、お父さん」
「おっ」
対応に出た美夜を、朱人はじっくり眺める
「そういう服装も、似合うな。さすがは私の娘だ」
事務所で働く美夜は、桜屋敷にいるときのような和服姿ではなく、カジュアルな洋服を着ていた。
美夜は淡く微笑みソファーを勧めると、手早くコーヒーを入れる。
「仕事には慣れたかい?」
「どうでしょうか…。まだ本格的な依頼はきていませんから」
「じゃぁ、やっと本格的な仕事ができるという訳だ」
テーブルに置かれたコーヒーカップへと手を伸ばし、口を付ける。
美夜は意を得たとばかりに、少しばかり緊張した顔で頷いて、階段を上って行った。
朱人は依頼を持ってきたのだと、悟ったのだ。
美夜がただの奇麗な人形でないことを確認し、朱人は満足気にほくそ笑む。
頭の回転もいい。
三階の住居だった部屋へと続く階段は、ドアで閉じられていた。
美夜はそのドアをノックし、返事を確認してから開いた。
「所長、ご依頼の方がお見えです」
と、声をかけるが仮眠用のベッドの中はピクリともしない。
パソコンの前に座る弓月が手を止めて振り向くと、悪戯っぽく笑いかけベッドを見る。
なにをするつもりなのかと、美夜の視線を追いかけた弓月の視線の先で、ちらちらと翻りつつ舞い落ちる花びらがあった。
数秒の間をおいて、観咲が飛び起きる。
「所長、ご依頼の方がお見えです」
「あ……ああ、すぐ行く」
美夜は丁寧に礼をして、階段を下りていった。
「どうかしたんですか?」
「階段を踏みはずしそうになる夢を見たんだ…。あれって起きてから考えると大した事ない夢なのに、夢の中だと妙に生々しいよなぁ」
しみじみと呟く観咲にため息を返して、再びパソコンに向かい整理したデーターをフロッピーに一時保存する。
「仕事中に昼寝なんかするからですよ」
そんな夢を見た理由を知っているので、観咲に気づかれないように笑う。
「へいへい。昨日の夜一緒に映画を見たはずなのに、なんで俺だけこんなに眠いんだろうなー」
「さ、いきましょう」
パソコンの電源を切ってから、乱れた髪と服装を姿見の前で直す観咲の肩を促して、依頼人の待つ二階の事務所へと向かった。




