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国道から外れたその道は、昼間だというのに走る車がまったくない。走るものと言えば盛んに黒い煙を出しつつ走る、トラクターくらいなものだ。
走ってはいなくとも、道の脇に止められている車はあった。辺りの景色になじまぬスポーツカーだ。ナンバープレートには『わ』の字が付いている。レンタカーなのだろう。
白い車体は日の光を受け、柔らかなラインに添って輝きを放っている。
その運転席側のウインドウが下げられ、中から細くしなやかな腕が差し出され、サイドミラーの角度を変えた。
「化粧のノリが悪いわ。美人が台なし」
舌打ちし、角度を元に戻してウインドウを上げる。
「なんなのよ、この村は。妙な雰囲気だわ…まるで海の底にでもいるみたい」
再び忌々しげに舌打ちして助手席の男を睨む。
「ちょっとコルバルト! いい加減その腑抜けぶりは見飽きたわよっ 弟子らしい相づちでも打ったらどうなの」
と、怒鳴るが返されたのは言葉ではなく、聞き飽きたため息だった。
「うっとうしいわね! 止めなさいって言ってるでしょっ そのため息っ」
「どーも、このあいだから不調でして……」
ぼそぼそと言われ、ミリオンはふんと鼻を鳴らした。
「あの得体の知れない奴等と戦ってからでしょう? わかってるわよっ でもねぇ、私達には仕事があるでしょう? そんな腑抜けられちゃ困るのよ」
「仕事って言ったって、使い魔のイシュタルやヴェスタは寝込んじゃったじゃないですか彼らのいない私達なんて、リモコンのないテレビみたいなもんですよぉ」
「それでも私達は東の魔女に任命されたのよ東の治安を守らなくちゃならないの」
ミリオンの言葉にコルバルトは無言で頷いた。
そんなことはわかり過ぎるほどわかっている。
「………この村に、一体なにが起こっているんでしょうね」
頭を切り替えたらしいコルバルトに、ミリオンは満足気に笑いかける。
やがて車がゆっくりと走り出した。
白のワーゲンが駐まっている小さな駐車場に、ブルーグレイのセリカを駐めて、朱人は三階建てのビルを見上げた。
コンクリートの荒い肌をさらしたビルは、そのために冷たい印象を与える。
黒のペンキで塗られた螺旋階段は、その灰色のビルの雰囲気を引き締めたが、いかんせんモノクロであることには変わりなかった。
にんまりと笑い、朱人は黒い非常階段から視線を移し、来客用の階段を見る。
そこには球形のライトが脇にあり、夜になると淡いオレンジ色の光で、モノクロなビルを優しく照らし出す。
だが、それも最近では見られなくなったことを、朱人は知っていた。
このビルの所有者達は、帰る巣を見つけたのだ。
にまにまと笑いながら、来客用の階段を上る。




