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なにやらほっとしつつ、美夜は迎えに出る 桜に迷わずにこの屋敷までたどり着ける者は限られている。
玄関ホールに立っていた者は、その内のひとりである久世恭介だった。
以前は桜の庭に迷わされていた恭介も、美夜が完全に桜屋敷の力を継承してからはこうして屋敷までたどり着けるようになっていた
「お久しぶりです、美夜様。近くまできたものですから」
「丁度よかった。実は久世さんに相談があったんです。え…と、御父様のご都合のいい日を教えていただけませんか」
一瞬自分に相談を持ちかけられると期待した恭介は間抜けな顔をする。
そんな会話を聞いた、居間にいる弓月と観咲は驚愕した。
美夜は自分達に一切相談など持ちかけることなく、専属の弁護士に話をもちかけようとしている。
頼られていないのだとショックを受けた。 居間に通された恭介は、そこに並ぶ顔ぶれに少なからず驚いた。
生き別れの兄らしい観咲とその友人である弓月がいるのはわかるが、それ以外の者が妙だった。
ひとりはアルビノでもうひとりは外人だ。
あいつらの仲間だろうか。
と思いつつ、観咲と弓月を見る。
「こちら水泉寺涼さんと連金光さんです」
涼と光が軽く会釈した。
「久世恭介です」
美夜とどういう関係か気にしつつ、会釈を返す。
「さて、用も済んだことだし、俺はお暇するかな」
光が優雅なしぐさで立ち上がる。それにつられるようにして涼も立ち上がった。
「涼さんも…?」
「顔色も、良くなったしな」
涼は目を微かに細める。
頬に手を当てながら美夜は微笑み返し、光と涼を玄関まで送る。
「なぁ……」
その後ろ姿を見送り、恭介は観咲に話しかけ動きを止める。
観咲と弓月の雰囲気に驚いた。
「どうした?」
「べっつに」
なにやら不機嫌そうな観咲に肩をすくめ、とりあえず気になることを聞く。
「あの二人は?」
「ただの顔見知りだよ」
「あぁ!? なんだこりゃぁっドレスぅ! ウエディングドレスじゃないかっ」
「うるさいぞお前」
「すげぇ宝石…」
騒ぐ恭介になど構わずに、突然弓月が立ち上がった。
「少し……頭を冷やしてきます」
低い声でそう告げて、自室へと上がっていった。
「どしたの、あいつ」
恭介の問いに、観咲はため息で応えた。
翌日、桜屋敷に久世弁護士が訪れた。
「私からお訪ねしようと、思っていましたのに…」
白髭を揺らして、白髪の初老は微笑む。
「お嬢様が私に用があると、恭介から聞きましたので」
美夜はひと呼吸おくために、ティーカップを口へ運ぶ。ティーソーサーと擦れる音が、居間に響いた。
観咲と弓月は仕事で出かけている。
それが心細くもあり、なぜかほっとしてもいた。
庭のさざめきに耳をすまして、心を落ち着かせてから切り出す。
「義母さんは」
言いごもる美夜を、久世弁護士は静かに見つめる。けして急かすことのないような、穏やかな視線だ。
「義母さんは、桜屋敷一族の力を使って……そういった仕事をしていたのでしょうか」
美夜のすがるような視線に、久世弁護士は鷹揚に頷いてみせた。
「はい。お嬢様をお引き取りになるまで、拝み屋のような仕事をしておられましたよ」
やっぱり、と呟いて、膝の上でその華奢な手を白くなるまで握り締める。
美枝は、おそらく仕事をすることで、その世界に顔が売れることを恐れたのだろう。
なぜならば、美夜の本当の家族はその世界では有名な火祭家だったからだ。
拝み屋としての仕事を続ける限り、いついかなる理由で火祭家が美夜を見つけるとも限らない。
だから美枝は、美夜の記憶の中では一度も拝み屋としての仕事をしなかったのだ。そして美夜にも、拝み屋としての修業をしなかったのだ。
「お嬢様は………そういった仕事をなさりたいのですか」
その声にはどこか咎めるような響きが含まれていた。
「…まだ、わかりません。義母さんは、私がそういった仕事をすることを望んでいないことは、修業をしてくださらなかったということからわかります。でも」
それを遮るように、久世弁護士は首を振った。
「美枝様は、あの仕事を体験した上で、お嬢様には勧めないのです。貴女様を想ってのことなのですよ」
美夜は俯いた。
久世弁護士は、火祭家とのことを知らないから、そう言えるのだ。
「幼いころから、美枝様は苦しんでおられた力など持たぬ私には推し量ることなどできませんが、よく木の下で泣いていらっしゃるところを、お見かけいたしました」
ふと、宝石店の地下金庫で祓ったマネキンのことを思い出した。
祓ったモノは桜の若木になった。庭にくるかと訪ねたが、あっさりと断られた。だから土に戻した。
けれど、義母さんなら……




