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「は?」
がっくり、とうなだれるコルバルトと妙に嬉しそうな顔をしているミリオンを訝しげに見返す。
「さきほど、泣いていただろう」
「……はい。とても恐くて…」
だが、そう背後で交わす言葉を聞き、慌てて振り向く。
なにかを言いかけるが、涼の赤い目に怒りを込めて睨まれて、込み上げる反感を押え込むために言葉を呑み込む。
「なぜ泣かせた」
そばにいたくせに、という言外の言葉が大音響で聞こえてくる。
「私ではなく彼らです」
言外の言葉には応えられなかった。涼はそれを薄く笑い、怒りの視線をなにやら驚愕している外人二人に向ける。
「悪魔か!?今、土の中から現れたように見えましたが」
コルバルトの震える声には誰も応えようとしなかった。
涼は地面に含まれる水分を媒介にして精神を飛ばしてきているのだ。
だが別の一族とはいえ、同じ五元素のひとつを操る一族として、水泉寺一族の力をおいそれと教えることなど誰もしなかった。
青い顔をしたミリオンが、小さな剣、金細工のカップ、小さな石のついたステッキ、古く大きいコインを自分の周りに置く。そして手を天へ向かってさしのべた。
「そうか、お前たちは魔女だな。東西南北にある魔女の塔を守るといわれる守護者だろうだが、東の塔の守護者はいないはずだが」
怒りに赤い目を光らせながら呟かれた言葉に、ミリオンの柳眉が反応する。
「なぜ、悪魔ふぜいが魔女の塔のことを知っているの」
「魔女ギルドも老いたな。東は空位にするのがしきたりのはずなのに。東は我らが守っている。守護者など不要だ」
「悪魔が守るですって、笑わせないで!」
涼は赤い目を光らせながら、冷ややかにすがめた。
「私は悪魔ではない」
「涼さん……」
剣呑な雰囲気を感じた美夜は、そっと声をかける。涼のそばには寄らないように、そんな美夜を観咲はやんわりと押し止めていた。 弓月は複雑な顔をしながらも、なにも言わない。
「桜の精霊、あなたは悪魔に操られているのですか」
コルバルトの切羽詰まった叫びに、美夜は首を振り奇麗に結われた豊かな黒髪を揺らした。
「私は精霊ではありません。悪魔でもありません。ただのひとです。お願いですから、もう攻撃するのはやめて下さい。ただ立ち去ってくだされば」
「ではやはり精霊使いだったのね! 呪文もなく精霊を操るなんて精霊使い以外にいないわ!」
「莫迦め。そんなことを言っているから、東の土地は魔女になど守らせないのだ」
涼を睨むミリオンの眼には憎悪が揺らめいている。
「おいでヴェスタ。コルバルト、やるわよ。こいつらは、惜しいけれども、東を守るには邪魔だわ」
名残惜しげにミリオンは弓月を、コルバルトは美夜を見る。だがその視線が外された時咄嗟に美夜は叫んでいた。
「結界を!」
『hairu!』
ミリオンとコルバルトの重なった声が高らかに響いた。
二人の魔女の掲げた手から、力がほとばしる。それらは互いに絡み合い、相乗し合いながら、美夜の声のもとに四重の結界を張った者達へと襲いかかった。
攻撃する力と防御する力が衝突し、摩擦が生じる。
摩擦は東の土地をくっきりと浮かび上がらせる、強い光となって駆け抜けた。
東の土地の影もまた、色濃く姿を見せる。
その時、確かにそこには、光と影だけが、存在していた。




