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     9

 シャム猫は小柄な外人の男のさしのべられた腕へ上り、その肩に座る。

 小柄な男は銀の髪をかきあげると、深い青の瞳を細めた。


「あなたは……桜の精霊ですか」


 流暢な日本語で話しかけられ、美夜は戸惑う。意味がよく把握できない。


「違うわよ。ばかね、コルバルト。彼女が有名な大和撫子なのよ」


 したり顔で言う派手な女が門の陰から現れる。黒髪黒眼だったが、顔だちやスタイルから日本人でないことがわかる。

 彼女の足下にいる毛の長い白猫が鳴く。


「ほら、ヴェスタもそうだって言ってるわ」


「いいえ、彼女からは桜の気配が感じられます。忘れた訳ではないでしょう? 私は緑の魔女ですよ」


「ふん、弟子のくせに」


 どうやら美夜は、桜の精霊だということにされてしまったらしい。


「わが屋敷に、なんの御用でしょうか」


 精霊かどうかなどは無視して問う。


「おどき精霊。ここへ入って行った奴等に用があるのよ」


「ミリオン、私にまかせてください」


 どこからか大きいコインを取り出す。


「まかりなりにも、緑の魔女ですものね」


 ミリオンの厭味など無視してコルバルトはコインを掲げる。


hairuハイル! 契約の精霊よ 緑の魔女コルバルトの命に従い 我に力を与えよ」


 カッ、とコインが白く輝き、その光の中から緑色の奇怪な姿をしたものが美夜に向かって襲いかかった。

 その二つの大きな目は蜻蛉の目とそっくりで、顔はつるりとした光を放っている。大きな口からのぞく牙は鋭く、手足は異様に長く細い。

 美夜は短い悲鳴をあげて、その場から逃げた。


「ちょっとぉ、精霊には優しいんじゃなかったの?」


「驚かせただけですよ」


 美夜が立っていた地面の花びらの山を見下ろして、そう言った。

 桜屋敷の食卓では、突然悲鳴を上げた美夜を弓月と観咲が守るように囲んでいた。


「どうした?」


 美夜には観咲の問いに応える余裕がなかった。

 きっ、と目つきを鋭くして立ち上がる。

 美夜のまとう雰囲気を読み、どうやら怒っているらしいと弓月は知った。

 怒りにまかせて、玄関へ向かって走り出すが着物のせいで妙に可愛い走り方になる。


「おい、美夜……」


 観咲と笑いを堪えた弓月は、あっさりと美夜に追いつく。

 それがお気に召さなかったらしく、美夜は観咲の問いに応えない。

 堪え切れず吹き出した弓月に顔を赤らめ、さすがにそのまま無視することはできなくなる。


「侵入者です」


 そう告げると、桜の生い茂る庭へと飛び込んだ。

 観咲としてはなぜ怒っているのか聞きたかったのだが、それ以上は問わずに弓月と共に後を追った。

 庭へ入ろうとした途端、桜吹雪に邪魔されて右往左往していたコルバルトとミリオンは不意に桜が大人しくなりようやく顔の前から腕を降ろした。

 その目の前には先ほど威かしたはずの桜の精霊美夜がいた。その瞳から怒りの感情を読み、コルバルトは苦い顔になる。

 精霊には嫌われたくない。どちらかというとこの精霊は手に入れたい。そのためには機嫌を損ねてはまずい。


「帰ってくださいっ」


「えーい、邪魔よっ! コルバルトっ」


 師匠に命じられ、コルバルトは嫌々大きめのコインを掲げる。


hairuハイル! 緑の魔女がここに願う 契約の精霊よ 道を開け!」


 先ほどと同じようにコインから光がほとばしり、その中から奇怪な形をした緑の生き物が現れる。

 なんの変化も訪れない庭に、美夜の悲鳴があがった。

 真っ先に駆けつけた弓月にしがみつく。


「いやっ」


 涙声でそう訴える。

 どうやらその緑の生き物が恐いらしい。

 なんとなく後ろめたいミリオンとコルバルトは、そんな気持ちは押し殺して疑問を呟く


「なぜ道が開かないの? 弟子とはいえコルバルトの精霊への支配力は絶対的なのに」


 頷き、訝しげに庭の桜を見上げていたコルバルトは、その庭の中から飛び出してきた観咲を見て声を上げる。

男性でも、魔女っていうらしいですね。

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