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「弟子のくせに師匠にばかり働かせないでよね」


 理不尽さを指摘しようとした言葉を呑み込み、コルバルトは神妙な顔つきをつくり謝罪した。

 わざとらしく長々と続く謝罪を遮り、ミリオンは道路の奥を見下ろす。


「なにかが来るわ」


 表情をひきしめたコルバルトは、遠くに青い燐光が見えた途端、どこからか金細工のカップを取り出す。


「待って!」


 燐光に視線を合わせたままそれを遮った。 






 弓月の呼び声に、車の中でラジオを聞いていた観咲は素早く道路に出た。


「来たか」


「ええ」


 オレンジ色の街頭の下に、二人は特に身構えることもなく立つ。

 車道のど真ん中だというのに堂々としたものだ。


「にしても……臭いな」


 頷く気配には辟易している感じが伺える。 少しでも臭いをごまかそうと煙草に火をつけた時、丁度前方から鎖を打ちつける音と共に淡い燐光を放つ緑色の車が現れた。


「こいつさえ始末すりゃいいなんて、楽な仕事だな」


「成仏させる必要もなさそうですしね。…これはもう、ただ走ることのみ思いつめた念の塊だ。人としての意識は消滅してしまっている」


「直接の害はないんだがな。目撃者が驚いて勝手に事故るだけだし」


 迫る幽霊車を目前にして、普段と変わらぬ口調で会話をする。


「本体は…おそらくダムの中ですね」


「あの田貫とかいうおっさんもそれには気づいているみたいだったな。本体を引っ張り出したら、おっさん達の仕事を増やすことになるし」


 煙草をくわえたまま観咲は手を構えた。


「これを消せば、本体は自然に朽ちるでしょう」


 弓月の両手が空を掻いた。その軌跡は交差し、幽霊車へと向かっていく。それにかぶさるようにして、観咲の放った炎がうねる。

 勝負とも言えない、その決着は瞬時にして決まった。

 幽霊車は二人の攻撃を正面から受け、消えてしまった。


「さて、帰るか」


「もう二時ですよ。案外時間がかかりましたね」


「待ち時間がな」


 後を見ることもなく、二人は車に乗り込む その遥か上方、木々の繁る場所であがった声など聞こえてはいなかった。


「一体何者なの なんなの、あの力は」


「こっちが聞きたいですよっ! 召喚のサインを描くことなく炎を呼ぶだなんて……」


「精霊使いだというの!? でも金属の塊である車に乗ってたわよっ」


「まだそうと決まった訳じゃないでしょう」


 ヒステリックなミリオンがなにやら叫ぶのを無視して、コルバルトは彼の愛猫の名を呼んだ。


「あの車を追ってください」


 イシュタルはひと鳴きすると、コルバルトの胸元から飛び出して行った。


「あれが、星だというの…?」


 ミリオンの唸りにコルバルトは応えられなかった。


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