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     6

 細かく鋭い輝きが、上質の絹を思わせるしっとりとした夜空に散らばっている。

 辺りを見回そうと数歩歩くと、靴の底で湿った小枝を踏む。丁度横にあった細い木に軽く手を添え、背後を振り向いた。


「どこですか、ここは。随分と都心から離れているようですね」


 星空を見上げていたミリオンは暗闇でもそれとわかるように頷いた。


「北の外れよ。この峠を越えれば湖があるらしいわ」


「で?」


 ここへ連れてきた理由を問うが、ミリオンは再び星空へ視線を移し応えなかった。

 問いの応えを諦め、眼下を見下ろす。

 街灯のまばらな道路がある。真夜中過ぎということもあり、通る車はまったくない。

 道路の向こうには木が生い茂り、その奥には暗い穴があった。


 ダム…か。


 なにかしら不吉なものを感じ、コルバルトは眉をひそめる。

 ふわり、と、なまぬるい風が吹く。

 そして不意に顔をあげた。

 何を見るでもなく宙を見つめる。


「なんです…この風は……」


「死の風よ。いいえ、もう死の観念さえまとっていない。…なにかの執拗な念が感じられるわ。……でも、そんなものはとるに足らない」


 星空を見上げたまま、ミリオンは呟いた。 問うように視線を向けたコルバルトに促され、言を継ぐ。


「五つの星が、私達と出会う」


「星? この死の風と関係があるのですか?」


 ようやく星空から視線を降ろしたミリオンは曖昧に首を振る。彼女にも読めないらしい ふたりはそれきり会話を切り、眼下の道路を見下ろした。

 なまぬるい夜気が肌にまとわりつくような夜だった。

 それからそう経たないうちに、変化が訪れた。

 それまでおとなしかった二匹の猫が不快げに鳴いた。


「どうしたの、ヴェスタ」


 毛の長い白猫を抱き上げ、ミリオンは優しく問う。

 コルバルトも無言で肩に乗るシャム猫の喉を撫でる。


「……臭いませんか」


 隣を見上げて呟く。


「生臭いわね。嫌な臭い。風がはらんでいた死はこの臭いのせいね」


「ええ、そのようですね。…イシュタルおいで」


 肩のシャム猫を上着の胸元へ招く。多少は臭いがやわらいだので、イシュタルは身体をまるめて眠り出す。

 どこからか十字架をかたどった十センチほどの小さなナイフを取り出し、ミリオンは宙に幾何学模様を描く。


hairuハイル!」


 そう言い放った途端、二人と二匹の周りの空気が清涼さを取り戻す。  

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