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     5

 いつもより化粧の濃い婦警が、よく冷えていそうな麦茶を二人の前に置いていった。


「Y課課長の田貫たぬきです」


「杉です」


 訝しげな表情を隠しつつも一礼する。


「ご丁寧にどうも。火祭ひまつりです」


「…風車かざぐるまです」


 古狸に差し出された資料を受け取り、素早く目を通す。

 ほんの数分ほどですべての資料を見終えた二人は互いに頷き合う。


「それでは具体的な依頼内容をお聞かせ願えますか」


 なんの話だか把握できていない杉は観咲と古狸を交互に見る。


「御覧の通り、小雪峠では妙な車が原因の事故が多発しています。お二人にはその車が夜中に峠を走らなくなるようにしていただきたい」


「……では大本をつきとめるなどはしなくてもいいのですね?」


 問われた古狸は苦笑する。


「正直言って、これ以上仕事が増えるのは避けたいですな」


 なるほど、と肩をすくめて観咲は立ち上がる。


「わかりました。終了しだい連絡をしたいのですが」


「杉に道案内をさせましょう」


 名刺を差し出しつつさりげなく言ってくるが、弓月は立ち上がりつつそれを制した。


「いえ、結構です」


「お心は嬉しいのですが、必要ありません」


 弓月のそっけない言葉を補うために、観咲は丁寧に断る。

 不審感も露な杉となど同行して楽しいはずがない。こちらの職を理解している依頼者以外と行動しないほうがいい。

 露骨に嫌がられ、杉は気分を害する。


「課長、彼らは何者ですか。お坊さんには見えませんが」


 古狸は黙るようにと杉を睨むが気づかないふりをして言葉を続ける。


「お払いでもしてもらうんですか?」


「そういったことをして欲しいのでしたら、我々には役不足ですね」


 立ち上がる弓月の口調からは感情が読み取れない。

 それがなにか薄ら寒い。


「いえ、ぜひお二人にお願いします」


 杉の足を蹴りながら古狸は慌てて声を張りあげる。

 弓月は完全に無視しつつ、観咲は不機嫌ながらも頷き返しつつ、二人は会議室を後にした。


「痛いじゃないっすか!」


 非難する杉を古狸は冷たく一瞥する。


「馬鹿が。お前はテレビの見過ぎだな。マスコミに踊らされている」


「な・・」


 あまりの言葉に杉は言葉を失う。


「彼らが拝み屋だと気づいたんだろう? だがテレビでよく話題になるような怪しげな奴等だと思ったんだろう?」


 しぶしぶと頷くのを確認して言葉を続ける


「日本のように怪談の多い国の事件が現実的なものばかりとは限るまい? 現に今回のように幽霊車が原因の事件が多発している。

 こういった事件をあらゆる方面からの依頼によって解決する人間が拝み屋だ。壺や掛け軸を売りつけるのはただの詐欺師というんだよ」


 よく覚えとけ、と言い残し、古狸は会議室を出て行った。

 釈然としないまま、杉は氷が溶けて薄まったコーヒーをまずそうにすすった。

 


 

 とあるホテルの一室でベットに寝転がりつつリモコンをいじくっていたミリオンは、突然身を起こしてテレビの画面にしがみついた『昨夜未明、K郡雪山市小雪峠にて交通事故により二人の男性が死亡しました。雪山市警によると車はカーブを曲がりきれずに』 画面には死亡した男の写真と名前と年齢が映ったあと、現場の映像が映る。


「死の風が視えるわ」


 唸るような呟きに、足下で丸くなっていた毛の長い白猫も同意して鳴く。

 ミリオンは素早く身を起こすとベットを下りて隣室へと向かう。


「なんですかぁ? こんな夜中に。都内を歩き回ってへとへとになって帰ってきたのはついさっきじゃないですか。睡眠不足はお肌の大敵とかであんなに騒いでたくせに…」


 ドアを開くなりずかずかと部屋に入ってきたミリオンにコルバルトはねちねちと文句を並べる。

 ミリオンはまったく意に介さず、手に持っていた小さなステッキのような物で床に円を描く。


「行くわよ」


「って、どこにですか?」


 とりあえず上着をはおりシャム猫を腕に抱きながら円の中へ入る。


hairuハイル!」


 コルバルトの問いには応えずにそう叫び、手のステッキを円の中央に打ち下ろす。

 すると二人と二匹の姿は床の中へと沈んでいった。


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