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「桜屋敷って、変わった氏だね」


 教室へ向かいながら観咲みさきが話しかけてきた 自分でそう意識をしたことがないのでどう答えていいのかわからず曖昧に微笑む。


「ま、俺も変わってるけどさ。火祭は特殊だよな…風車も。変わった氏には意味があるんだよ」


 観咲は優しげに笑みながら続ける。

 ふと、なにか不快なものを感じた美夜は返していた微笑みを消す。

 探られている。

 そう、直感した。目に見えない触手で美夜の内部を探ろうとしている。

 反射的に意識を集中した。触手は触れる寸前で弾かれる。

 観咲の笑みが消えた。


「桜屋敷さん、何をぐずぐずしているんです早く来なさい」


 先に立って歩いていた花井が急かした。


「…はい」


 厳しい目で観咲を見やりつつ、静かに返事をした。

 ひとと触れることを学べと母は言った。

 ひとの心へ土足で入ろうとする者と相対せよ、というのだろうか。そこからなにを学べというのだろう。

 できることならば、こんな人間とは関わりたくなかった。

 こくり、と観咲は喉を鳴らした。

 弓月の反応から、この依頼の関係者だと判断し霊的作用の有無を調べようとしたが強固な壁に弾かれた。

 とてもなんらかの『力』を持っているようには見えない。

 ただ普通とは異なる部分と言えばその身に纏う雰囲気だった。

 外界の汚れに染まらぬ清涼とした気配。まるで早朝の葉先の露のような玲瓏れいろうたる雰囲気 そして特殊な力も持たずに観咲の索手さくしゅを弾く意志の強さ。


 妙な子だ…。


 美夜に冷たい視線を向けられ、観咲は少しばかり落ち込んだ。

 自分が、とても汚い生き物のように思えた 

 HR、一年E組から大きな歓声と拍手が沸き起こる。

 若い美形の担任と美人の美夜に生徒達が大喜びしたのだ。副担任花井の話しなど誰も聞いちゃいない。

 他人慣れしていない美夜はおもしろがられ早くも『お嬢』というアダ名がつく。

 休み時間がくるたび、


「お嬢髪ながぁーい」


「ほんとぉいつから伸ばしてんの?」


 と、数人の女子に囲まれ質問攻めに合う。 実は男子を近づかせないための牽制でもあった。


「下ろせばいいのにぃみつあみもかわいいけどさー」


「…校則で…」


 ぽそり、と答えると何が可笑しいのか笑いが起こる。


「そんなん点検の時だけ守ればいいのよ」


「奇麗な黒髪ぃー」


 昼食さえかしましい中で済ますことになる ようやく落ち着けるのは授業中だった。

 最近あまり眠れない上に午後の授業なのでとんでもなく眠い。眠るのを我慢するのに必死で授業どころではなかった。


「桜屋敷さん、何ぼーっとしてるの」


 花井の叱責が飛ぶ。


「HRで構ってやんなかったからハナイのご機嫌ナナメだぞぉ」


「でたー花井必殺女子イビリ」


 ひそひそと小声で囁かれる。


「親が亡くなったことをいいことに、一週間以上も休んでいたから休みボケしているようね」


 音をたてて黒板に白い字で数字を並べる。


「ボケた頭のいい運動よ、この問題を解きなさい。教科書を見ればできない問題ではないわ」


 花井は教卓に問題集を放り投げ、窓へ歩み寄りもたれかかる。


「オイオイ、あの問題集見ろよ」


「うげ…『難関校攻略ハイレベル数Ⅰ』サイテー花井、そこまでやるか」


「やっだぁ、お嬢教科書なんて今日はじめて開くんでしょ?できるわけな

いじゃんねー」


「だれかできるひといるぅ?」

 

 美夜の周りの者が唸りつつも解こうとしてくれる。

 その優しさが、うれしかった。

 あんなひとばかりじゃないんだ…。


「桜屋敷さん、教科書持って前に出なさい。考えるなら前でやりなさい」


 花井はその者達から美夜を離すつもりらしい。

 教室が静まり返る。花井に対する反感がふくらんでいた。

 美夜は折り目の硬い教科書を持ち、黒板の前に立つ。

 問題は、確かに難しかった。

 通信教育で大検を取ったので悩めば解けないこともなさそうだった。


「桜屋敷さんが解き終わらなかったら休み時間まで延長するわね」



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