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 休む間もなく電話が鳴り、交換手の話す妙に営業慣れした声と、資料室やら会議室を出入りする者達の雑多な話し声が、雪山署を満たしていた。


 煙草の煙が靄のように署内を包んでいる。


 それもこれも昨夜起こった事故のせいだった。


 資料と睨み合うのに飽きたので、一息いれようと廊下の自動販売機に向かう。




「杉、俺はコーヒーミルクなしの砂糖増量」


 デスクの向こうから田貫課長あだ名は古狸が声をかけてくる。


 杉はよれよれのシャツから禁煙パイポを取り出し、返事をする代わりに口にくわえた。


 Y課を出てすぐの自動販売機は故障中だったので、仕方なく一階のロビーにある自動販売機まで買いに行った。


 注入中のライトが点滅するのを視界の隅で見つつ、つきあたりにある姿見に映る自分を眺める。


 髪はぼさぼさシャツはよれよれでいつ洗ったのかも覚えていない。禁煙パイポをくわえるその姿は、とても齢二十七とは思えなかった。


「ハゲてないのがせめてもの救いか。独身男なんて所詮こんなもんよ」


 取り出し口から古狸のコーヒーを出し、エレベーターへ向かう。丁度扉が開いており、中に立つ男が扉が閉まらないよう手で押えてくれる。


「っと、こりゃどーも」


 早足に駆け込むとほのかに甘い香りが漂う こんなむさくるしい場所には似つかわしくないので、妙に気になる。


「何階ですか」


 特に大きい訳でもないのに、よく通る声だった。


「あ、三階です、どうも」


 愛想よくにっこりと笑いボタンを押す手を止めた相手は、意志の強そうな目をした青年だった。同じ階らしい。

 ラフな格好をしているが香水をつけるのだろうか。


 大学生くらいだな。夏休みで里帰りか…、それにしては妙に浮いている。この市の者じゃないな。

 旅行者か。


 杉は視線は送らずに観察し、そう見抜く。


 だが警察になんの用だ?

 エレベーターのドアが開き、杉は足早に下りる。


「すみませんが、Y課はどちらでしょうか」


 真後ろから問われ内心驚きつつ振り向くと目つきの悪い青年がいた。

 今のエレベーターに乗ってたのか。

 気配をまったく感じなかったので驚く。


「ああ、こっちです」


 妙な二人連れは後をついてくる。


 すれ違う婦警がちらちらと背後に視線を送っている。


 男の顔になど興味はないが、そういえばけっこうな美形だったか、と思いつつY課のドアを蹴った。


 半開きだったのでそれで開く。


「ここですよ」


「田貫さんはどちらの方ですか」


 放たれた声にY課の者達は雰囲気を一変させる。雑多なものが身をひそめて様子を伺っている。


「窓際の一番でかいデスクです」


 まるでグラビアの中から抜け出してきたかのような二人に皆が注目していた。


 あまりにこの場にそぐわないせいもあったし、もちろんその容姿のためでもあったが、彼らが放つ雰囲気が刑事達の勘に触れたのかもしれなかった。


 古狸が立ち上がり彼らを迎える。


「お待ちしてました。会議室の方へどうぞ」


 杉を促しつつ、古狸は会議室へと誘う。


 二人連れは特に反応せず大人しくついてきた。


 その時になってようやく、杉はこの二人が古狸の呼んだ相手だと理解した。


禁煙パイポって…今ないよね…。シガーチョコってことにするか。

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