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「おかしいです。確かにすごい念が入っていましたけれど、あれだけで鬼になるのでしょうか」
魂を持って動き出した物質を、妖怪とか付喪神とか鬼と言う。
突然、砕けたはずのスポットライトが輝いた。
その光の中に人影が現れる。拍手をする音が聞こえた。
「いいところに気がついたね、美夜。たしかにそのドレスは付喪神になるほどのものじゃない。ただ念が凄かったんでね、少し私が手を加えただけだよ」
「連金の野郎! まさかこれはお前の仕掛けた罠だったのか」
光の中で観咲の言葉を肯定するように金の髪が揺れた。
「それにしても、本当に二つの力を持っているんだね。まさかそれを両方とも操れるなんて驚いたよ。理由を教えて貰おうか」
「私は見せ物ではありません!」
不遜な物言いをする連金教授に対し、美夜は毅然と言い放つ。
「!」
連金教授の目に剣呑な光が過ぎった。
「ぐあっ」
不意に観咲が叫びを上げた。見るとその首に黒い手が絡んでいる。
観咲自身の影が、意志を持ったかのように観咲の首を絞めているのだ。
「さ、話してくれるね?」
連金教授がなにかの術を使ったのは明らかだった。
「私は火祭家の者ですが桜屋敷の力を受け継ぎました。血の力と継承した力があるのはその為ですっ」
「だがなぜ二つとも操れるんだ? 異なる力同士は牽制し合うだろう」
「両手に宿る母達の魂のお陰だと聞いています。しくみは私にもよくわかりません。さぁもういいでしょう? 兄さんから手を引いてください」
だが連金教授は首を振った。そして美夜の手をつかむ。
「ではそのしくみを私が調べよう」
「嫌です!」
咄嗟に桜屋敷の力を放つ。同時に涼が水泉寺の力を放った。二つの力は相乗し合い、連金教授を吹き飛ばした。
「おっさん、なんだってそのしくみにこだわるんだ?」
喉から黒い手の離れた観咲は首をさすりつつ尋ねる。
身を起こした連金教授は観咲を睨みあげた その髪が先の方から黒く変色していく。髪だけでなく指先から肌も黒くなる。
「影!」
この仕事を依頼にきた男の名を呼ぶ。確かにそこにいるのは影だった。
「光は私が邪魔なのです。ですから」
再び髪と肌の色が変わる。金髪の白い肌となる。
「勝手に出てくるな」
皆の視線から逃れようと顔を背ける。
「そうだ…。私は、私の中の影が邪魔だだが、その力を失うことはできない。だから影を操り私の望む時に力のみ行使できるようにしたいんだ。そのためには美夜の力のしくみを調べる必要がある」
「自分勝手な奴だな」
聞こえよがしに呟いた観咲を連金教授は再び睨む。
「だってそうだろう? 影だってあんたの一部だろう。それをてめえの都合で消したりしていいのかよ」
「私の一部だからどうしようと私の勝手だろう? 私が邪魔だと思ったから私が消す。それだけのことじゃないか? なぜ非難されなくてはならない」
それまで沈黙していた弓月が、それは違うと呟いた。
全員の目が弓月に向く。
「一部だろうとなんだろうと、貴方は貴方です。わからないのですか…? 影も貴方自身なんですよ。影を消せば、貴方は光でいられなくなる。光があればこそ影があり、影があればこそ光がある。どちらかが欠ければ、残った方も欠けることになる」
「そんな…」
愕然とした光はふらりとスポットライトの中へ入る。
「そうなのか…」
上を見上げると、天井に影が映っていた。 それは、スポットライトの光があるからこそあるのだ。
うなだれたまま、連金教授は去っていった
一部だろうとなんだろうと、彼女は彼女か 俺は…
観咲がなにか呼びかけるのを聞き取れずに弓月は意識を手放した。
俺は…彼女が好きなのかも、しれない…。
低い地鳴りのような音をたてて、地下金庫の入口から光が差し込んできた。
支配人と共に救急隊員の男達が入ってくる 観咲と弓月が運ばれる中、支配人は取り乱しながら哀願した。
「どうか、どうかこのことはご内密に! お願い致します、どうかっ」
観咲は忌々しげに承諾した。こちらとしても一族の持つ力をカメラに納められているのだ。下手なことは言えない。
美夜は二人につき添っていった。涼はいつの間にかいなくなっていた。
数日後、退院した観咲と弓月だったが、観咲はともかく弓月の腕の骨折は全治一カ月ということだった。




