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    10

「おかしいです。確かにすごい念が入っていましたけれど、あれだけで鬼になるのでしょうか」


 魂を持って動き出した物質を、妖怪とか付喪神つくもがみとか鬼と言う。

 突然、砕けたはずのスポットライトが輝いた。

 その光の中に人影が現れる。拍手をする音が聞こえた。


「いいところに気がついたね、美夜。たしかにそのドレスは付喪神になるほどのものじゃない。ただ念が凄かったんでね、少し私が手を加えただけだよ」


連金れんきんの野郎! まさかこれはお前の仕掛けた罠だったのか」


 光の中で観咲の言葉を肯定するように金の髪が揺れた。


「それにしても、本当に二つの力を持っているんだね。まさかそれを両方とも操れるなんて驚いたよ。理由を教えて貰おうか」


「私は見せ物ではありません!」


 不遜な物言いをする連金教授に対し、美夜は毅然と言い放つ。


「!」


 連金教授の目に剣呑な光が過ぎった。


「ぐあっ」


 不意に観咲が叫びを上げた。見るとその首に黒い手が絡んでいる。

 観咲自身の影が、意志を持ったかのように観咲の首を絞めているのだ。


「さ、話してくれるね?」


 連金教授がなにかの術を使ったのは明らかだった。


「私は火祭家の者ですが桜屋敷の力を受け継ぎました。血の力と継承した力があるのはその為ですっ」


「だがなぜ二つとも操れるんだ? 異なる力同士は牽制し合うだろう」


「両手に宿る母達の魂のお陰だと聞いています。しくみは私にもよくわかりません。さぁもういいでしょう? 兄さんから手を引いてください」


 だが連金教授は首を振った。そして美夜の手をつかむ。


「ではそのしくみを私が調べよう」


「嫌です!」


 咄嗟に桜屋敷の力を放つ。同時に涼が水泉寺の力を放った。二つの力は相乗し合い、連金教授を吹き飛ばした。


「おっさん、なんだってそのしくみにこだわるんだ?」


 喉から黒い手の離れた観咲は首をさすりつつ尋ねる。

 身を起こした連金教授は観咲を睨みあげた その髪が先の方から黒く変色していく。髪だけでなく指先から肌も黒くなる。


「影!」


 この仕事を依頼にきた男の名を呼ぶ。確かにそこにいるのは影だった。

「光は私が邪魔なのです。ですから」


 再び髪と肌の色が変わる。金髪の白い肌となる。


「勝手に出てくるな」


 皆の視線から逃れようと顔を背ける。


「そうだ…。私は、私の中の影が邪魔だだが、その力を失うことはできない。だから影を操り私の望む時に力のみ行使できるようにしたいんだ。そのためには美夜の力のしくみを調べる必要がある」


「自分勝手な奴だな」


 聞こえよがしに呟いた観咲を連金教授は再び睨む。


「だってそうだろう? 影だってあんたの一部だろう。それをてめえの都合で消したりしていいのかよ」


「私の一部だからどうしようと私の勝手だろう? 私が邪魔だと思ったから私が消す。それだけのことじゃないか? なぜ非難されなくてはならない」


 それまで沈黙していた弓月が、それは違うと呟いた。

 全員の目が弓月に向く。


「一部だろうとなんだろうと、貴方は貴方です。わからないのですか…? 影も貴方自身なんですよ。影を消せば、貴方は光でいられなくなる。光があればこそ影があり、影があればこそ光がある。どちらかが欠ければ、残った方も欠けることになる」


「そんな…」


 愕然とした光はふらりとスポットライトの中へ入る。


「そうなのか…」


 上を見上げると、天井に影が映っていた。 それは、スポットライトの光があるからこそあるのだ。

 うなだれたまま、連金教授は去っていった


 一部だろうとなんだろうと、彼女は彼女か 俺は…


 観咲がなにか呼びかけるのを聞き取れずに弓月は意識を手放した。

 

 俺は…彼女が好きなのかも、しれない…。 


 低い地鳴りのような音をたてて、地下金庫の入口から光が差し込んできた。

 支配人と共に救急隊員の男達が入ってくる 観咲と弓月が運ばれる中、支配人は取り乱しながら哀願した。


「どうか、どうかこのことはご内密に! お願い致します、どうかっ」


 観咲は忌々しげに承諾した。こちらとしても一族の持つ力をカメラに納められているのだ。下手なことは言えない。

 美夜は二人につき添っていった。涼はいつの間にかいなくなっていた。

 数日後、退院した観咲と弓月だったが、観咲はともかく弓月の腕の骨折は全治一カ月ということだった。

 

 

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