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    7

 スポットライトがゆっくりと点滅し出す。


 場数を踏んでいるはずの観咲みさきは、内側からの震えを無理矢理押えつけるために力の限り歯をくいしばる。


 少しずつ激しくなるスポットライトの点滅が冷静さを打ち壊していった。


 点滅が最高潮に達した時、破裂音と共にライトの与える明るい光が消え失せた。


 辺りは青い炎から発せられる淡い光に照らされていた。室内を現から切り離す、青白い光だった。その中を彷徨うように歩くマネキンの衣擦れの音が不気味に響く。


 ち、と忌々しげな舌打ちをして弓月はかまいたちを放った。マネキンの頭部を狙ったのでヴェールが裂かれるだろうが構いはしなかった。下手に手を抜くとこちらの身が危うい


 だが予想に反してヴェールは裂かれなかった。マネキンの頭部には傷ひとつついていない。


 かまいたちは弾かれた。


「馬鹿な…」


 弓月の呟きに応えることなく観咲はマネキンを睨み付けた。


 炎の色が一瞬にして深紅へと変わる。


「観咲!?」


「俺たちには、無理だな」


 深紅の炎を割るようにして、マネキンが現れた。


 風車かざぐるま一族の力も火祭ひまつり一族の力もこのドレスを着たマネキンに通じなかった。


「お手上げだ。ドアを開けてくれ!」


 近づくマネキンを牽制しつつ後ろへ引き、カメラに向かって叫んだ。

 弓月はカメラに目を向ける事なく、観咲と自分を囲むようにして風の結界を張った。

 その瞳には、不安が揺れていた。

 

 がたん、と音をたてて立ち上がった支配人は足早にドアへと向かう。


「開けなくていい」


 鋭く放たれた声に支配人は耳を疑う。


「は?」


 驚いて振り返り、モニターの前に座る男を見る。

 その眼力に支配人は立ちすくんだ。


「二度も言わせるな」


 支配人はただ頭を垂れることしかできなかった。


「まだエサを罠に吊しただけじゃないか」


 地下金庫を映したモニターの放つ淡い光に照らされた端正な横顔が、残忍な笑みを浮かべた。


 

 

 美夜は不安げな面持ちでベランダから庭を見つめていた。

 観咲からの連絡が途絶えた。出張の時は必ず夜に電話が入るのに、昨夜はそれがなかった。

 予定では遅くとも今日には帰ってくることになっていた。

 だがもう夕方になるが、帰る気配はない。

 たまりかねて、美夜は庭へ出た。そして門で二人を待とうとする。

 陽は、西の果てへと沈んでいく。

 やがて夜が訪れても二人は帰らなかった。

 暗い庭を、不安を顔に出したまま屋敷へと向かう。


 なにかあったのだろうか…。誰かに相談した方がいいだろうか……


 不意に朱人のことを思い出した。

 美夜は駆け出す。


 そうだ、父さんに相談しよう。


 気を緩めたためか、涙が溢れる。それを手の甲で拭いながら屋敷へ向かった。


「なにを泣く?」


 突然降った声に手を掴まれ、驚いて振り向いた。


「涼さん…」


 美夜の涙に呼ばれた涼は、柳眉をひそめつつ見つめる。


「何があった」


 堰を切ったように流れる涙を手の甲で拭い涼を見上げる。


「…兄さんと風車さんが…帰ってこないんです」


 表情を動かさずに、涼は美夜の涙を指で拭う。


「探せ」


 指先の滴に短く命令する。

 滴は地に落ち、吸い込まれていく。


「水を借りるぞ」


 そう言うなり屋敷へと入っていった。

 涼は洗面台に水を溜め、両手を浸して目を閉じた。そしてほんの数分で目を開く。


「いた。…だがこれは…水ではないな…」


「どういうことですか、無事なんですか」


 すがるように見上げる美夜を、困ったように見下ろした。表情の少ない涼にしては珍しい。


「…生きては、いる」


 美夜は顔色を失う。


「行くか」


 涼の言葉に、真っ青なまま頷いた。

 涼は美夜の腕を引き寄せ、水の中へと沈んでいった。

 


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