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改装工事中のとある宝石店の地下金庫に二人はいた。
案内人はそそくさと逃げるようにして戻って行った。その際外側から鍵をかけられたことに気づいていたが、観咲も弓月もそのことについてはなにも言わなかった。
広い天井には同じリズムで首を振る監視カメラが備えつけてあった。
「あのカメラは、本当にこれを見張っているんでしょうか」
地下金庫にはたった一体のマネキンが保管されていた。マネキンはウエディングドレスを身にまとっていた。そのドレスは天井と床からのスポットライトに照らされ、眩しいほどに煌めいている。それは布の持つ光沢ではなく、宝石のそれであった。ドレスの絹の布地がいくつもの宝石によって埋め尽くされているのだ。
弓月は台に乗せられたそれを見上げていた
「確かに、これだけの数のカメラがあると自分が見張られているような気分になるな」
弓月の呟きには違ったニュアンスが含まれていたのだが、それに気づかない観咲はそんな応えを返す。だが弓月はあえて悩む要素を増やす事もない、となにも言わずにドレスから視線をそらした。
このスポットライトのせいか、まるでこの地下金庫がなにかのステージのように思われたのだ。そして天井のカメラの向こうには、二人が主演の舞台を観る観客がいるような錯覚に陥る。
気のせいだ、と、その予感を振り切った。
「さあ、始めましょうか観咲」
「おう」
天井の監視カメラから視線を移し、観咲は台の上のウエディングドレスを睨みあげた。
このドレスは話題作りにとこの宝石店が数年がかりで制作したものだった。昨年ようやく完成し、店のウインドウに飾られていた。
店の狙い通り話題を呼び、雑誌で何度も取り上げられテレビでも紹介された。そうして先日、ある女優が結婚するためにそのドレスを買い試着しにきた。
事件はその時起った。
ドレスを脱がされたマネキンが突然暴れ出し、ドレスを脱がした店員を殴り女優からドレスを取り上げたという。
その際店内のショウケースなどが壊されたため、今この宝石店は改装工事中だということらしかった。
観咲の見上げるマネキンの腕には黒い染みがついている。店員は顎を割られたということなので、その血だろう。
血はドレスにもついたらしいが、なぜかその跡はなくなっていたという。
「浄化の炎で落ちなかったら俺らには無理ってことだな」
観咲はドレスに向かって手を突き出す。弓月は同時に腕を振り、空中を掻いた。
マネキンの足元から青い炎が燃え上がった 弓月の掻いた指先から放たれる風によりその勢いは激しくなる。
その炎は熱を放つことはなかった。いつも観咲が使う炎とは種類が違うのだ。
突然弾かれたかのようにマネキンの背が弓なりにしなった。広げられた両腕が二人の方へと伸ばされる。間接を繋いでいる金具が不気味に軋んだ。
それぞれ身構えつつも術を中断する事はない。
マネキンは腕を伸ばしつつ二人の方へと身を動かした。動くはずのない塗料で塗られた眼球が観咲を見る。
ざ、と、室内の温度が急激に低下した。




