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    3

 次の日、門に人影がないことを確認してから学園へ向かった。

 同じ格好の生徒達に紛れながら校舎へ入る 大勢のひとに酔い、職員室を捜し当てた時にはへとへとだった。

 副担任に名を言い礼をすると長いふたつのおさげが揺れる。

 副担任は表情のない顔で美夜へ一瞥を投げかけると立ち上がり、無言のまま歩きだした 人形のようだ、と妙なことを思いつつついて行く。

 行き先は校長室だった。

 副担任は丁寧にノックするとドアを開く。


「失礼します来客中ですか…」


「例の生徒だね?入りたまえ」


 鷹揚な返事が聞こえ、副担任に続き美夜は部屋へ入った。


「済まないが隣の部屋で待っていてくれるかな?」


 室内の窓際に置かれた大きな机の向こうに座る白髪の男が言った。校長らしい。

 美夜は返事をしかけ、止まる。部屋の中央にあるソファーに座る者達の強い視線を感じたのだ。


「あ…」


 腰を浮かせた長髪の男が呟いた。目は美夜を凝視している。

 隣に座る男もサングラス越しに美夜に視線を向けていた。


「どうかしましたか、風車かざぐるまさん」


「…いえ」


 弓月ゆみづきは慌てて座り直す。


桜屋敷さくらやしきさん」


 副担任が隣の部屋へ続くドアの前でせかすように美夜を見た。

 美夜は逃げるように隣の部屋へ移動した。

 昨日といい今日といい、なぜこうも初対面のひとに妙な視線を投げかけられるのだろう 弓月ゆみづきがそれを目で追うのを隣の男、火祭ひまつり観咲みさきはおもしろそうに眺めた。

 校長が小さく咳払いする。二人は校長へ視線を戻した。


「それで、依頼内容ですが…ここ数日流れている噂のことなのです」


「噂、ですか」


 観咲みさきの言葉に校長は深く頷く。


「少女の幽霊が現れるという噂です。…詳しくいいますと、夜、人気のない路地に少女の幽霊が現れ桜の花びらとなり崩れ去るというものです」


「ほう」


 それがなぜ依頼と結びつくんだ?

 観咲みさきは促すように校長を見た。


「その少女というのが…どうやら我が学園の制服を着ているようなのです。ただの噂なのかどうかはどうでもいい。ただ原因の元を消して頂きたい」


 なるほど。悪い噂は入学人数に響くからな 納得し、観咲は頷く。


「わかりまし」


「幽霊ではありません。私はそれに会いました」


 弓月ゆみづき観咲みさきの言葉を遮るように言った。


「死んでないのか。なら生き霊だったのか」


 やっかいだな、と続けかけ呑み込む観咲みさき


「……この学園の生徒でしょう」


 妙に断言するのを怪しんだが、観咲みさきは何も問いつめずに校長を見上げる。


「どうしますか?この学園で調べることになりますが。こういう時のため

に一応教員の資格は持っていますけれど」


「…では、教師として入りこんでください。くれぐれも、あなた達の正体を生徒に悟られないでください」


 報酬の交渉をするのを構わずに、弓月ゆみづきは隣室へつながるドアを見た。


「花井先生」


 交渉を終えた校長がドアへ声をかけた。間をおかずにドアが開き副担任花井と美夜が現れた。

「この度は大変だったね、桜屋敷さくらやしきさん。お悔やみを言わせてもらうよ。…さて、君は他の新入生よりスタートが遅れてしまったが、優秀な君ならすぐに追いつける。がんばりたまえ。君のクラスは…一年E組だ。担任の先生が病気で入院されたので臨時の先生を招いた担任にはどちらが…」


 さっと素早くサングラスを外し、観咲みさきが一礼した。


「担任の火祭ひまつりです。よろしく、桜屋敷さくらやしきさん」


 少し垂れ目の甘い顔だった。

 にっこりと笑いかけられ、優しそうなひとだと安堵しつつ会釈を返す。


桜屋敷さくらやしき美夜みやと申します。よろしくおねがいいたします」


 最近の十代に似合わぬ丁寧な言葉に観咲を初め校長までが驚く。

 HRを知らせるチャイムが鳴ったのはちょうどその時だった。

 


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