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    2

 大きな買い物袋を両手に、美夜はよろよろと帰路についていた。

 兄さん達はこんな荷物軽々と持っていくのに…私は体力がなさ過ぎるのかしら。


「それとも買い過ぎたのかしら」


 考え込んでいると不意に荷物を奪われた。


 驚いて見上げると、肌も髪も白い青年が無表情のままもう片方の荷物を持つ。


「あいつらは?」


 あいかわらず感情のこもらない口調で尋ねてくる。


「もうそろそろ帰ると言っていました。ありがとうございます、水泉寺さん」


 唯一色のある赤い瞳は少し怯みながらそらされる。


「涼でいい、と言っているだろう」


 はい、と頷き涼を見上げた。


「また背が伸びましたね」


「…そうか?」


 それきり、会話らしい会話のないまま桜屋敷の門まで来る。


「お茶でも召し上がって行かれませんか」


 立ち止まった涼にそう言うが、涼は軽く首を振る。そして門の内を見た。


「お帰り美夜」


 そこには仁王立ちした観咲が立っていた。 車からキーを抜き出し歩み寄ってきた弓月に、涼は荷物を押しつける。


「じゃあな、美夜」


「はい。わざわざありがとうございました」


 礼をする美夜に笑いかけ、涼の姿は水となり地面へと吸い込まれていった。





 屋敷へ戻ると、美夜は早速夕食の支度に取りかかった。


 何かを刻む音を聞きながら、観咲はため息をついた。


「お前な…、俺がいうのもなんだがもうちょっと積極的になれんかね。美夜ももうすぐ二十歳になるんだぞ? 妙な虫がうろついてんのに、なんでそうぼさーっとしていられるんだ?」


 問われた弓月は応える代わりに美夜の入れたお茶に口をつける。

 弓月の態度に苛立ちを感じた観咲は、憮然としてソファーに身を沈めた。


「情けねぇ」


 さすがに聞き流すことができなかった弓月は、湯飲みをテーブルに置く。


「…どうして…俺があのひとに惚れていると極めつけるんですか?」


「どうしてってお前」


 言いかけて、弓月が自分を《私》ではなく《俺》と言っていることに気づいた。弓月は本音で話しているのだ。


「まさか、惚れてないって思ってるのかよ」


 沈黙する弓月を愕然として見つめる。


 こいつ…ニブすぎる


 惚れてもいない女を二年間もじっと待つことなんかできるはずないだろうが!


「炎と初めて会った時から、惹かれていることは認めます。でも…だからといってあのひとに、特別な感情を抱いているとは限りません」


 言い切る弓月に観咲は呆れたため息をつく


「…本気でそう思っているんなら、俺はなにも言わんよ」


 静かな口調でそう言うと、観咲は台所へと消えていった。


 弓月はなぜか心が重く、気分転換に散策でもしようと庭へ出て行った。


 桜達はもう迷わすことはなかった。観咲と弓月を認め、受け入れていた。だが実際、桜の力によらなくとも迷ってしまうほど、この庭は広かった。


 なにも考えないようにと努めていた弓月はいつの間にか庭の端である塀まできていた。


 そのまま塀沿いに歩いていくと、やがて門が見えてきた。


 門が見えた途端、弓月は歩を止める。門の前で立つ美夜と涼が不意に思い浮かんだ。


 嫉妬しなかったと言えば、嘘になる。だが美夜が好きなのかと問われれば、応えに詰まるだろう。だから観咲にははっきりと言い切った。けれどなぜかそれが、心に重い。


 考えるのをよそうと吹っ切るように再び歩き出すと、門に車が止まったことに気づいた 朱人だろうか、と思ったが車から降りた男の髪の色を見て違うのだと知る。


 その色は金だった。


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