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「…そんな…義母さんが…?」
「私にはずっとひっかかっていたことがありました。なぜ桜屋敷美枝は指輪を取っておいたのか?
なぜ一族の力について、貴女に教えなかったのか?
…母上は貴女と火祭とのつながりを、完全に絶つことなどできなかったんだ。そこまで非道にはなれなかったんだ」
そして木々と会話ができるというささいな力のみを表面化し、他の力は全て眠らせたまま継承させた。それはおそらく、美夜に普通の女の子としての人生を歩んでほしかったのだろう。
指輪を残せば、美枝の犯した罪を美夜は知ることになる可能性は高い。なのに美夜に渡させたのは、美枝の中の《母性》だろう。
罪を知った美夜は桜屋敷一族の力を放棄しかねないというのに、最後の最後で美枝は美夜の母であることを選んだのだ。
美夜は掌の桜の花びらを見つめ、また涙を落とす。
学校へ行け、と言った母が思い浮かぶ。
指輪を差し出した母が思い浮かぶ。
なぜ私は愛されていないなどと思ったんだろう。
『愛してるわ…私の娘…』
死ぬ間際の母の言葉を、こんなにはっきりと覚えていたのに。
「ごめんなさい…義母さん…」
弓月はため息をつくと美夜の右手をつかんだ。
「まったく…、貴女はこんなにも周囲の人間から愛されているのに」
右手を開いてやる。
「これ…あの指輪についていた石…?」
「こちらには火祭方の母上が宿っています」
頷き、そう説明する。
火祭の母は美夜が誘拐された数年後に亡くなっている。最後まで美夜を気にかけていたと聞く。
感慨深げに両手のひらを見つめる美夜を見て、弓月は再び息をつく。
それに気づいた美夜は問いかけるように弓月を見上げる。弓月は戸惑いながら俯いた。 今抱えている思いをどう説明したらいいのかわからなかった。
「…先生…なんだか、雰囲気が変わりましたね」
思ってもみなかったことを言われ、弓月は美夜を見返す。その目を見ると、またなにかの衝動が溢れてきた。
「私、先生に初めて会った時、とても恐かったんです。先生の目が、とても鋭かったから…でも今は平気です。雰囲気が柔らかく…優しくなった」
弓月は片手で口を覆い、あらぬ方を見る。
観咲がいれば照れているのだとすぐに気づいただろう。
「あ、申し訳ありません…お気を悪くしましたか? そういえば以前、火祭さん…兄さんがそういうことは男性には言うなと」
枷が外れた弓月は美夜を抱き寄せる。
「すみませ……少し……このままで」
そう呟きながら、弓月は眠りに落ちていった。
「せ・先生? 寝るのならベットの方が…」
いくら起こそうとしても、弓月は二年ぶりの熟睡から目覚めることはなかった。




