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   6

 中庭の小さな池より、水が蛇のようにその身をくねらせつつ近づいてきた。


「母など信じるお前は馬鹿だ。お前の義母の目的も知らずに慕うなど、愚かだ。…いや、知っていたのだったか。この指輪を手に取れば、自ら封じた記憶も甦るか。」


 水の蛇より受け取った指輪を、涼はその白い手で受け取る。

 怯えた美夜はその指輪より遠ざかろうと身を浮かせた。しかし水の蛇がその身を拘束する。


「桜屋敷美枝は、お前を愛していた訳ではない」


 美夜の手にその小さな指輪を握らせつつ言葉を紡ぐ。


「お前の内にある、火祭ひまつり一族の持つ火を操る才能を愛したんだ」


 美夜は、その記憶を開封する鍵を、手に入れてしまった。

 小さな指輪。その内側に刻まれている名前は見ずともわかる。


 火祭美冴夜…私の本当の名前。火祭一族の証し!


「あの微笑みも、あの声も、あの優しさも、あの慈しみも、全ては私自身にではなく、私の持つ才能へ向けられたものなのですか!?」


 不吉なざわめきを起こしつつ、草木が膨らんだかのように見えた。


「義母さんは、私を」


 その先は恐ろしくて言葉になどしたくはなかった。


「愛してなどいなかったのさ。」


 涼の言葉が美夜の内に響く。

 突然丈の伸びた草に埋もれつつ、美夜は呆然と手のひらの指輪を見つめる。音もなくそこへ涙が落ちる。


「母親の愛などこの世にないのさ! 全ては欺瞞ぎまんだよ! 欺瞞! ただの思いこみだ! でなきゃただの自己陶酔じことうすいさ」


 僕は仲間を手に入れた。僕と同じように母親に裏切られ、なおかつ僕の力を増幅してくれる仲間だ。


「もうわかっただろう、美夜。あんな女が守っていた屋敷になんて帰る必要はない。ここにいろ。僕のそばにいろ。ずっと…」


 涼は美夜の手を取ろうと手を伸ばす。

 瞬間、天が鳴動した。とどろききより一歩速く閃光が結界に衝突した。

 晴天の霹靂へきれきだ。


「くそっ結界が破られた!」


 鋭く叫び、涼は美夜を立ち上がらせようとその細い腕をつかもうとした。その白い手首に草が絡まる。


「!」


 咄嗟に手を引こうとするが、絡まる草の葉で手首に傷を受ける。


「それでも私は…義母さんを愛している…」


 その呟きを聞いた瞬間、涼の全身が泡立った。


「ふざけるな! お前を誘拐した女だぞ!? お前を駒のように扱った女だぞ!!」


 そんな苦しげな声で、辛そうな顔で、なぜそんな言葉を吐く


「理屈では、どうしようもできない…」


 なおも涙を流す美夜を見つめ、涼は胸苦しくなった。締めつけるような感情が湧き上がった。


「刷り込み…か」


 美夜は母親を憎む事などできない。ただ苦しむだけ。

 その計算されたかのような美夜の反応に、涼は憤りを露にする。


 計算…していたというのか、あの女は。


 美夜は義理とはいえ母親の守っていた屋敷を捨てることなどできない。その受け継いだ力もまた。桜屋敷美枝には都合のいいことばかりだ。


「力ずくでも、お前をあの屋敷に戻しはしない」


 その強い意志は、母親という生き物への復讐心と美夜に対するせつなさからくるものだった。

 刹那、赤い光が舞い降りてくる。美夜と瓜二つの姿を持つモノ。


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