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「何を泣いているの?」


 再度優しく尋ねる。

 少年は始めこそ突然現れた女性に驚いていたが、優しく声をかけられこらえていた涙が溢れた。声をあげ、美枝みえの胸に飛び込む。

 美枝は少年の背をそっと撫でる。

 しばらくはそうしていたが、やがて少年を呼ぶ声が館より聞こえてくると、美枝は顔に緊張を走らせる。


「…涼くん…ここにいるのは辛い…?」


 少年の涼が泣きはらした目で見上げると、美枝は作り笑いを浮かべる。


「私と一緒に来ない? 私はひとりなの。広い…とっても広い桜屋敷にひとりなの。涼君が来てくれると嬉しいな」


「行く! 僕行くよ! お母さんは迎えにきてくれないんだもん…だからこんなところにいなくてもいいんだ」


 抱きつく腕に力がこもる涼を見下ろし、美枝は意を決したように表情をひきしめた。


「涼様! そんなところにいらっしゃったんですか」


 涼を探していたらしい女の声がした。近づいてくる気配がする。そして息を呑む音が聞こえた。


「何者です! 一体どうやってこの館に!」


 振り向く美枝の瞳が鋭くなる。


「僕も手伝うよ」


 美枝に寄り添いつつ涼が呟くと同時に、肉のつぶれるような音がした。

 息を呑んだ美枝は驚いたように涼を見下ろす。


「草で身を拘束するだけのつもりだったのに…なぜ…? それに、あなたはもう力が使えるの?」


「うん。でも変だな…僕もその泉の水で動けないようにしようとしただけなのに…死んじゃった」


「なんてこと…」


 そう呟くなり、美枝は両手で顔を覆う。


「ごめんなさい…ごめんなさい、涼君…。私が悪いのよ…まさか土と水の力が合わさるとこんな反応があるだなんて知らなかったの…私が悪いのよ…私が殺したのよ。いいわね」


 美枝は泣きながら涼を抱き締める。

 状況をよく把握していない涼は、ただただこの優しい女のひとが泣いていることが悲しかった。


「あなたの中に土の力を入れるのは…危険だわ…。だから…ごめんなさい…」


 なおも涙を流しつつ涼と離れ、美枝はこちらへと手を伸ばしてくる。

 頭上で木がざわめいた。


「おばさん」


 涼は慌てて美枝を追い、同じように手を伸ばしてくるが、美枝のようにこちらへ吸い込まれることはなかった。


「僕を連れて行ってくれないの!? どうしてだよ! 僕が白いから? だから連れて行ってくれないの…?」


 少年の泣き声を最後に、映像が消えた。

 

 哀レナ子ヨ…

 大木の呟きが、重く響いた。


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