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   2

 二人は、呆然として庭を見下ろしていた。

 主のいない屋敷は閑散としていて、二人がそこにいることを静かに責めているかのようだった。


「あのガキ…」


 恨みのこもった観咲みさきの呟きが低く響く。


水泉寺すいせんじの少年は、風車かざぐるまの力が火祭ひまつりの力と相乗し合うように、水泉寺の力が桜屋敷と相乗し合うことを知っているんですね」


「戻るぞ。炎の属である美冴夜の生きりょうは、再び美冴夜を追うはずだ。パソコンに入ってくる情報を引き続き分析してくれ」


 背を向ける観咲を、弓月は何か言いたげに見ていたが何も言わず目を伏せた。


 

 

 目を閉じ、口を閉ざし、微動だにせずに、美夜は水の牢に佇んでいた。五感全てを凍らせて、ただひとつのことに集中していた。

桜を探していた。貪るかのような勢いで、急く何かに追い立てられながら、桜を探していた。意識の触手を伸ばし尽くして、桜の木を探していた。


 ない…。近くにいないの…?


 なぜ自分かこうも桜を求め、桜に飢えるのか、わからなかった。けれど諦める気など起きない。

 桜を探し始めたきっかけは、この場所から逃げようと思ったからだ。近くにいる桜と話し、助言を受けようと思ったのだ。


「無駄だよ」


 涼やかな少年の声がかけられたが、水牢の中で鎮座する少女に反応はなく、身動きすらしようとはしない。


「無駄なんだよ。この水の社は水中にあるんだから」


 涼がいくら言葉を募ろうと、美夜が反応することはなかった。涼は眉根を寄せて、


「強情な女め…」


 と呟いたが、水牢のそばを離れようとはしなかった。

 美夜には、なぜ桜を探しているかなど、とうの昔にわからなくなっていた。ただ飢えていたのだ。桜に飢えていたのだ。

 

「涼様…この女、もう三日もこの状態です。無理にでも食べ物を与えた方がよろしいのではありませんか?」


 波がそう言うのを待っていたかのように、美夜を囲っていた幾本もの細い滝が途切れる 駆け寄りたいのを押えながら、涼は早足で美夜のそばへと行く。そして顔を覗き込み、かすかに息を呑んだ。

 三日の間、飲まず食わずでいたからか、美夜の顔には焦燥の色が濃い。


 いや…食事のせいではない…。


 涼は戸惑いながらも、美夜を抱き上げる。 それを瞳に映すなみの心には、嫉妬が溢れていた。


「医者を呼べ。…上に移る」


「そんな! 館には植物があります! その女が逃げてしまいますよ涼様…」


 波の言葉など聞かずに、美夜を抱えた涼の白い姿は水の中へと沈んでいった。

 

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