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ばん!
突然、窓が外側から破壊された。三人が身構える隙を与えずに、水が大蛇のようにうねりながら侵入してきた。
窓の外は豪雨によって水煙をたてていた。 水の大蛇は迷うことなく観咲に襲いかかる
「くそガキが! 調子づくんじゃねぇ」
観咲は罵りながら両手を突き出す。炎が大蛇を迎え撃つ。観咲と弓月の周りに風が吹いていた。弓月が起こしているのだ。それは観咲の炎を増幅し、蒸気さえ残すことなく大蛇を一瞬で消し去った。
二人が息をつく暇もなく、鋭い悲鳴が上がった。
美夜は頭上を振り仰いでいた。天井には蝙蝠のように逆さづりに立つ水泉寺少年がいた。
水泉寺少年は忌々しげに舌打ちする観咲に嗤いかけると、美夜に視線を戻し片手を構えた。その指には二本の長い透明な針が挟まれている。
「させるかよっ」
観咲が炎を放つが、再び窓より現れた水の大蛇に阻まれる。弓月がまた口笛を吹き、美夜を守る結界を強化した。
水泉寺少年は嘲笑を顔にへばりつけたまま天井を蹴る。それとほぼ同時に、美夜の両側を挟むようにして二人の少女が現れた。観咲が張った結界が、水泉寺少年の呼んだ雨によって破られたので侵入することができたのだ だが弓月の張った結界を越える事はできずにいる。
水泉寺少年は空中で回転し手から針を放ちつつ、美夜を守る結界に舞い降りた。
「美夜さん! 逃げてくださ」
ぱん!
弓月の叫びを押し退けるようにして、乾いた破裂音が空を裂いた。風の結界が破られたのだ。
ジュッ、と蒸発音が美夜のかたわらより聞こえた。訪れた少女の片方の胸に刺さっていた針が溶けていく。
美夜のそばに降り立った水泉寺少年は、獲物を見つけた狩人のように、残酷な喜びに満ちた瞳でそれを見る。
そして手をかざし、水を放った。少女の姿は炎に包まれ、消える。 水泉寺少年は逃げ出そうとした美夜を捕まえ、もう片方の少女の方へと突き飛ばした。
「てめえ! なにしやがるっ」
怒る観咲は、次々と襲いかかる水の大蛇を無視して炎を放った。
弓月もまた同時に同じ行動をしていた。
かまいたちによって増幅された炎が水泉寺少年に襲いかかる。
だが水泉寺少年は余裕の笑みを浮かべながら倒れている美夜を抱き上げる。傍らにいたはずの少女は、美夜に触れた途端消えてしまった。
大蛇に襲われる二人に見せつけるかのように美夜を抱き寄せると、襲いかかる炎を遮る水の壁が現れた。炎はくすぶりながらも散ってしまった。
「僕はようやく手に入れたぞ!」
げらげらと笑いながら窓へと向かう。
「ま・待て」
突然力の増した水の大蛇に苦戦しつつ、観咲は必死で追いすがろうとする。それを押えつけるかのようにさらに大蛇が現れる。
水泉寺少年の笑い声が響く。
なに…?
空間を震わせるほどの声の轟きを感じた。
当主ダ!
トウシュダ! サクラノトーシュダ!
歓喜。
稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。びくっと身体が震え、殴り起こされたように突然に、美夜は目を開いた。
一瞬、庭の桜が膨らんだ。幹が伸び、太くなり花の数が増える。成長したのだ。
現実に引き戻された美夜は正常な聴覚が戻る。間近に笑い声を聞き、驚いて身を引こうとした。だが水泉寺少年が放すはずもない。
「嫌! 放してください!」
ざぁ、と潮が引くような音がした。水泉寺少年は庭を振り仰ぎ鼻を鳴らす。
その足下から水たまりの中へと沈んでいく
「・・・!」
恐怖でひきつった悲鳴を上げた。
屋敷の中を暴れ回っていた水の大蛇が爆音と共に消える。窓から観咲と弓月が身を乗り出した。
美夜はそちらへと手を伸ばす。届くような距離ではなかったが、してしまう。
観咲も手を伸ばし、空を掻く。
かつてと同じように。届かぬ小さな手。
「美冴夜ぁ!」
桜の花びらが、水たまりに押し寄せた。けれどそこにはもう、彼らの当主はいなかった




