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「一体何があったんだ?」
二十畳ほどの広い和室の中央に、弓月は寝かされていた。その枕元に座り込んだまま、観咲は尋ねてきた。
どう答えたらよいのかわからず、美夜は俯く。
「桜屋敷」
いささか強い口調で促される。
観咲は新手の出現を敏感に嗅ぎ取っていた
「顔を洗いに洗面所へ行ったんです」
戸惑いながら、顔を上げ観咲を見る。
「水が…突然流れ出して…」
「水…?」
「はい。…そしてアルビノの少年が現れたんです」
頷き、説明を続ける。
美夜が気づかないほど微かに、観咲は息を呑んだ。
アルビノ…
「名前を…水泉寺と名のっていました」
言ってから、観咲の表情に気づく。
「…先生?」
そのただならぬ厳しい表情に戸惑いながら声をかけた。
「水泉寺のガキが…弓月を襲ったのか」
「正確には、最初に私を襲い、次に駆けつけた先生をそういえば、お二人は名前を知っている間柄のようでした」
観咲は応えず、弓月を見下ろしていた。
「先生も、知ってらっしゃるんですか」
なぜそう思うのか、と問うように観咲は見返してきた。
「それらしいことを、その少年が言っていたので」
「…ああ、確かに、知ってる」
一句ごと区切るようにはっきりと応える。
「あの、私と同じ姿をしたモノのことも知ってらっしゃいますか? あれは一体…」
見つめてくる観咲の目が鋭くなった。どきり、として美夜は言葉を切る。
「知りたいか」
引き込まれるようにして、美夜は頷いた。 観咲は微笑んだ。その目にはどこか残酷な色が伺えた。それに気づきながらも、美夜は知りたいという欲求に従う。
「桜屋敷美枝は教えなかったのか…」
基本中の基本なんだがな。
観咲は美枝の意図を推し量ろうともしない
「火水金土風、それぞれを操る一族がある火を操るのは火祭一族、水を操るのは水泉寺一族、風を操るのは風車一族、土を操るのは桜屋敷一族、と。金は二つに分けられていると言われている。光と影を操る蓮金一族。桜屋敷、お前は植物を操る力を持っているな?」
美夜は慌てて首を振る。
「そんな、操るなんて力はありません。ただ会話できる程度です」
「それは、まだ完全な力を手に入れていないからだ。その完全な力っていうのが」
「余計なことは吹き込むな」
不意に、テノールが観咲の言葉を遮った。途端、和室の片隅に生けてあった花が飛び散る。剣山を浸していた水が盛り上がった。
「水泉寺のガキか」
弓月と美夜を庇うように片腕を広げながら人を形作る水に向き直る。
「馬鹿なままの方が扱い易いんだ。余計なことは吹き込むな」
観咲の鋭い視線を平然と受け止めながら、水泉寺少年は畳の上へ足を降ろす。
「桜屋敷は渡さん。火傷をしたくないのならさっさと出て行け」
「僕の目的は不完全なその女じゃないよ。あんたこそ、水死したくないなら邪魔するな」
一瞬、二人は睨み合う。その張りつめた沈黙を真っ先に破ったのは、観咲の指先に灯った炎だった。




