表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/94

    15

 とあるオフィス街の一角に、さしたる特長のない三階建てのビルがあった。

 粗野なコンクリート造りで、らせん状の非常階段がついている。非常階段の下りた先は駐車場になっている。駐車場は車が三台留まれるほどの簡素なものだった。

 今、その駐車場に黒塗りの高級車が留まっていた。おかげで常に留められている白いワーゲンは窮屈そうに見える。二台分の面積を高級車が占めていた。

 非常階段の反対側には、ビル内部へと続く階段があった。

 かつん、こつん、と硬い足音が聞こえてくる。

 階段は、ビルの二階までしかなかった。一階へ続くドアはなく、三階へ続く階段はなかった。

 足音は二階のドアの前で止まった。

 

 三階は2LDKの居住階だった。

 ビルの所有者達がそこに住んでいる。


観咲みさき! 観咲っ大変ですっこれを見て下さい」


 南向きの部屋から弓月ゆみづきが叫んだ。

 散らかった居間でインスタントのコーヒーをすすっていた観咲は、煙草を探しつつ弓月の部屋へ入る。


「弓月、俺の煙草知らないか」


 胸、腰、とポケットをまさぐるが見つからない。昨夜眠る時、面倒なので着替えなかった。だからポケットには煙草が入っているはずなのだ。


「桜屋敷ですよ!」


 床に放り投げられていた弓月の上着をまさぐっていた観咲は、上着を投げ捨て弓月のデスクへ歩み寄る。その手には煙草の箱が握られていた。


「なにが美冴夜みさやなんだ」


 コンピューターの画面に浮かぶものを見ても観咲にはよくわからなかった。

 かろうじて都内の地図らしい、と読み取る ただ点やら円やらが記され、地図の機能を果たしていない。


「噂の霊もどきが現れた場所をマーキングしていったんです。そして法則性があるかどうか調べてみると、出現場所こそランダムでしたが、向かっている場所はひとつだったんです!桜屋敷ですよ」


 息を呑んだ観咲の喉が、ひゅ、と鳴った。 そして表情を硬くしたまま、くすねた煙草に火をつけた。


「観咲」


「煙草、止めたんじゃなかったのか。上着に入ってたぞ」


 弓月が何か言いかけるのを遮り、逃げるように部屋を出ていく。

 その背中を見送りながら、弓月は重くため息をついた。

 ビ、と来客を知らせるブザーが響いた。

 ぬるくなったコーヒーをすすっていた観咲は、灰皿に置きっぱなしの煙草をもみ消しつつ立ち上がり、二階へと続く階段を下りる。 遅れて弓月も二階の事務所へ向かった。

 埃っぽい事務所内に、男がひとり立っていた。


「なんだよ、まだ証拠は撮ってないぞ」


 観咲が憮然として言い放つと、ドアの前に立っていた男は軽く首を振る。


「証拠はいらない」


 かつこつ、と足音を立て勧められてもいないのにソファーへ腰かける。


「顔色が悪いぞ、弁護士さん。言動も妙だしなさては女に振られたな」


 にやり、と意地の悪い笑みを浮かべて、恭介の向かいに座った。


「そんなことで顔色を変えるはずないだろ」


 気怠げに言う恭介は本当に顔色が悪い。


「おおかた幽霊でも見たんでしょう」


 はっとして観咲は弓月を振り返り、恭介に顔を戻す。

 観咲は身を乗り出した。

 苦々しい顔のまま煙草をくわえる恭介は、弓月の言葉を否定しない。


「美人だったよ。…夢だって言われたら信じるがな」


「どこで見たんですか」


 冷ややかな弓月の言葉に、恭介はなにか皮肉を言おうとしたが口をつぐむ。

 からかう気分ではなかった。


「昨日、別れた後、門の前で会った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ